第1話



「おめでとう、三廻部みくるべ審良あきら。貴殿は選ばれた。今すぐにその身を清め、この神事服を着られたし」



 家に帰ったら、能面をつけたスーツの男が玄関に立っていた。徹夜続きでぼやける視界にスーツの色が見えた瞬間、俺は反射的にその場に土下座をしていた。

「あ、すみません部長。すみません部長。次からは絶対にミスしませんので。どうか、首だけは勘弁して下さい……」

 口から自動的に流れ出たのは、とても自分のものとは思えない、機械みたいな声だった。本物の機械音声と違う点があるとすれば、情けなく震えているところだろう。

「顔を上げられよ、補佐官殿」

 俺は恐る恐る、膝をついたまま顔を上げた。穏やかな笑みを浮かべた能面が、そっとこちらに手を差し伸べてきた。

「貴殿の日々つのる上質な呪いと絶望を、神は大変気に入っておられる。貴殿には『祭司補佐官』の地位が与えられた。この祭典の終焉まで、祭司たる私の補佐をしてほしい」



 呪い。



 頭はぼうっとしてよく働かなかったが、その言葉には、確かに聞き覚えがあった。

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