アポカリプ寿司屋での一幕

仁後律人

プロローグ

 軋む音を立てて、自動ドアが開いた。

 

 それまで清浄な空気で満たされていた店内に、いくつかの異物が流入する。

 煤けた外界の風、銀色の有毒花粉と砂埃混じりの空気、ドアガラスにもたれかかっていた白骨死体から外れた頭部、それから一人の男。

 

 襤褸と見紛うコートに身を包み、擦り傷だらけの黒眼鏡で瞳を隠し、背中には朽ちかけた木製ストックの自動小銃、腰にいくつかの電子ジャンクをぶら下げた、男。


「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」


 機械が彼を出迎えた。人間の上半身と台車の下半身を持ち、胸に応答用デバイスを抱える妙ちきりんな人型ロボットだ。

 人型とはいえ、しょせんは機械である。外装は肌色の皮膚ならぬパールホワイトのプラスチックで、面相もまた人とはほど遠い。

 不気味の谷に転げ落ちる一歩手前の、言いようのない不安をかき立てる白塗りの顔面。それをぼんやりと眺めながら、男は静かに呟いた。


「……寿司が、食いたい……」


 呻くような、呪うような二言を搾り出した背後で自動ドアが閉まり、哀れな死者のドクロを噛み砕いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る