第19話 姫川さんが転校するかもしれない……。
『理沙視点』
「アニキ、アイツらですか。
今回の獲物わ、グヒヒヒィィイ」
「ああ、間違いねぇ。
姫川財団のご令嬢さまの他にも、資産家のご令嬢がたくさんいやがるぜ。
ウヒャシャシャァアア」
鉄パイプで地面を擦る音。
「これで俺たちも億万長者の仲間入りですね」
鎖をブンブンと振り回す音。
「ああ、そうだ。
毎日遊んで暮らせるってもんだぜ」
耳障りなバイク音と車のクラクションが鳴り響いて。
駐車場に
「な、なんの、アナタた……」
「うっせえ、どけ。邪魔だ」
女教師はあっさりと倒され、昏睡してしまう。
「きゃあっ!?
緑川先生がっ!?」
「えっ、これから私たちどうなっちゃうの?」
「イヤイヤイヤァアアア。
ち、近寄ってこないでください。
お、お金が欲しいなら、パパにお願いしますから。
暴力だけは振るわないで、く、ください……お、お願いします」
そして私たちは
「話がはやくて助かる……ぶはぁ!?」
「よくもアニキをやっ……ぐは……」
……ということには、ならなかったわ。
虫の居所が悪かったありささんによって、特攻服や黒い革ジャン、革パンツに身を固めた暴走族の人たちは一瞬にしてボコボコにされてしまったからよ。
こびりついた血を指で拭って、軽く舐める。
その妖艶で萌えるしぐさに、思わずドキとしてしまう。
そしてみちるさんと殺妹が縄で男たちを拘束していくわ。
「こんな化け物じみた女子高生がいるなんて聞いてねえぞ」
やけくそ気味に男は、近くに落ちていたミネナルウォーターを殺妹に向かって投げつけた。
予想外の攻撃に私は反応できず。
「きゃあっ!? 殺妹ちゃんが、殺妹ちゃんが、殺妹ちゃんが……えっ、なんで、 どうして……あたし、夢でも見てるの」
みちるさんの悲鳴が聞こえてきた。
「おい、見たかよ。
あの金髪のガキ!?
水を浴びたら化けキツネになりやがったぜ」
「ええ、アニキ。
この目でバッチリと見ました。
どういうカラクリなのかはさっぱりわかりませんけど……わかっていることが一つだけあります。
ここに居たら俺たち食べられちゃうんじゃないですか」
ガラの悪い男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまう。
こんな大勢の人がいるところで、九尾の狐になっちゃうなんて。
助けて!? 露璃村くん……。
『大助視点』
息苦しさを感じて目を覚ますと、目の前には『九尾の狐』がいた。
まったく状況がのみこめない。
九尾の狐は俺の服を脱がそうとしていた。
それを素っ裸になった姫川さんが必死になって止めている。
不思議な光に遮られて肝心なところはまるで見えないが、素っ裸になっているのは、どうやら姫川さんだけではないみたいだった。
殺妹ちゃんや跳姫姉妹に、名前もよく覚えていない同級生たちもみんな素っ裸になっていた。
「あっ!? 露璃村くん。
やっと目を覚ましてくれたんだね。
寝起きのところ、悪いんだけどね。
何も聞かないで、私のお願いを聞いてくれるかな。
九尾の狐の唇に、情熱的なキスをしてあげてほしいの」
俺は姫川さんの言葉に従い、九尾の狐の唇にキスをする。
するとカラダ中から力が抜けていき……また深い眠りにおちてしまう。
【あと何着……ヒトの衣服を集めれば……あちきは……ヒトになれるでありんす……か……】
そして幼い少女の声が聞こえてきた。
「いくらヒトの衣服を集めても、『キツネ』がヒトになることなんてできないよ。
でも無理してヒトになる必要なんてないと俺は思うんだ。
別に説教くさいことを言うつもりもないけどさあ。
キツネに変身した殺妹ちゃんも大好きだから」
【怖くはなかったのでありんすか】
「ぜんぜん、コワくなかったよ。
あんな大きなキツネを見たのは、生まれて初めてだったけど、キツネはキツネだからね。
ぜんぜん、コワくなかったよ。
俺は昔からキツネのことが大好きだから。
モウモフとした金色の毛並み最高だろう」
【ほんとうに面白いヒトでありんすね……】
++++++++++++++++++++++
『理沙視点』
姫川家が所有するお屋敷、露璃村大助の部屋。
はだけた掛け布団にしがみつくようにして、露璃村くんは乱れた寝相をさらしていたわぁ。
「あ~あ、ほんとよく寝ちゃってるわねぇ。
でも大きなケガも、何の後遺症もなくて……本当に良かったわぁ。
あと、それから……私の言葉を信じてくれて、ありがとうね……」
無防備な寝顔に自然と笑みが浮かび、私は寝癖のついた彼の髪を優しく撫でる。
しばらく彼の寝顔を眺めてから。
「そろそろ、起きて!? お願い、起きてよぉ!?
どうしても、
寝台の傍らに膝をつき、間近で耳元に呼びかけるが、起きる気配はまるでなかったわぁ。
でも、黙って『転校』してしまったら『薄情な女』だと思われてしまうわぁ。
こちらに背中を向けて横向きに寝る彼の肩を掴んで揺さぶった。
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『大助視点』
「……くん……むら……ろりむらくん……」
心配する姫川さんの声が聞こえてきた。
気がつくと俺は自室のベッドの上で寝ていた。
下山レースの最中に倒れたのか?
ダメ……だ……全然……思い出せない。
目を覚ました直前は、意識がはっきりしなかったが、かすかに鼻をくすぐる甘い芳香(ほうこう)に目覚めをうながされ、ゆっくり身を起こす。
「もしかして、ずっと付き添ってくれていたのか。
ありがとうな。
姫川さんにはみっともないところばかり見せてる気がするな」
「別に気にしなくてもいいわ。
私が勝手にやったことだからねぇ。
で、いきなりこんなことを聞くのも、あれなんだけど……露璃村くんは、どこまで覚えているのかな」
「ごめん、俺何か失礼なことしちゃったかな。
まるで記憶にないんだ」
「お、覚えてないなら別にいいのよ」
「なんだか、顔が赤くなったような気がするけど、大丈夫」
「心配してくれて、ありがとう。
でも大丈夫だか……」
「理沙さま。
転校するって本当ですか」
部屋のドアが開き。
メイド服姿のありさちゃんが中に入ってきた。
「姫川さん、今の話って!?」
「2人とも落ち着いて。
まだ正式に決まったわけじゃないから。
ただ……暴行事件を起こしたのは……事実だから……」
「でも、アレ……正当防衛じゃないですから。
理沙さまには……なんの落ち度もないじゃないですか。
むしろ、妾たちは被害者ですよ」
「いったい何の話をしてるんだ」
「王子様は、事件が起こったとき気を失っていたから、わからなくても仕方ないわね」
「ちょっと……ごめん……」
姫川さんのスマホが鳴る。
「はい。
姫川です。
はい、はい、わかりました。
わざわざ連絡していただきありがとうございます」
「お姉ちゃん!? わたしたち転校しなくてもいいんだって。
みんなとお別れしなくてもいいんだって。
今まで通り学校に通ってもいいんだって。
ルリエールが上手いことやってくれたみたいだよ」
勢いよくドアが開き。
殺妹ちゃんが姫川さんに抱きついた。
「予想していたよりも騒ぎが大きくならなくてよかったわ」
「まったくお騒がせな人たちね。
でも、良かったわ。
理沙さまには、まだ何のお礼もできてませんから」
「はい。もうこのお話しはおしまい。
露璃村くん、お腹空いてるのでしょ」
姫川さんは豊満な胸の前で、両手を強く叩き。
彼女は一点の曇りもない爽やかな笑顔を浮かべて聞いてきた。
「……空いてるかな」
「はい、リンゴ。
やっぱりお見舞いと言えば『リンゴ』よねぇ。
ホラ、口開けて……あ~んって……」
キレイに皮をむかれたリンゴをフォークで刺して、差し出してきた。
「うん。
めっちゃっくっちゃ、美味しよ。
姫川さんがむいてくれたリンゴ。
ありがとうな」
「ほらほら、病人は布団から出ないのぉ」
俺のことを心から案じるのが伝わってくるような、真摯な表情。
汗でピッタリと肌に張りついたシャツが、彼女の美しいボディーラインを描き出し、健康的な地肌の色と水色のブラが薄っすらと透けて見え。
お椀の美しい形をくっきり浮かび上がらせている。
くびれた腰からの女性的な丸みを帯びたヒップラインをピチッと食い込む黒いスパッツに、ムチムチの真っ白な太もも。
長い時間走ったことで、清楚な白いハイソックスがずれ落ちている。
いつもは見せないような優しい笑顔を浮かべて
その笑顔を見た途端。
俺の心臓がどくんと跳ねた。
姫川さんの笑顔はとても可愛らしかった。
少し恥ずかしそうに、はにかんでふわりと微笑む彼女は、掛け値なしに可愛かった。
その笑みは値千金。太陽よれも癒される。
目もくらむような美人だ。
これ以上、姫川さんに心配をかけるわけにもいかず、病人らしくおとなしく寝ることにした。
ちなみに優勝したのは、大方の予想通り『殺妹ちゃん』だった。
露天風呂から見た景観を描いたモノだ。
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