第13話 今、窓の外に人影が見えなかった

『ルリエール視点』


 前庭。


 花壇荒らしを捕まえるためにルリたんは、跳姫姉妹の歓迎パーティーには参加せず、独りで見張りをしていた。

 

 今は『春』だけど、やっぱり夜は冷えるわね。


 物陰に隠れて犯人が現れるのを待つ。


「盗んでくれと言わんばかりの雑な警備体制だな」


 スコップを持った貧相な男が現れた。


「そこのフードを被った怪しい男。

 我の屋敷に無断で立ち入るとは、不届き千万。

 我が養分にしてくれる」


「厨二病のガキの相手をしてる場合じゃねんだよ。

 怪我をしたくなければ、おとなしく道を開けろ」


「誰にモノを言っている。

 身の程を知らぬ小童こわっぱめっ。

 姿形だけで相手の強さをはかるとは未熟。

 修練が足りていない証拠じゃ」


「もうごたくは聞き飽きてるんだよ。

 いいから、そこどけ。

 俺の人生を滅茶苦茶にした露璃村大助と姫川理沙に復讐する。

 その邪魔をするなら、たとえ幼女でも容赦はしねえぞ」


「聞き耳を持たぬか。

 できれば話し合いで解決したのじゃが……いたしかたないか。

 一度痛い目をみないと、わからないようじゃな」


「どいつもこいつも俺のことを見下しやがって」


 男は庭に植えられていた大木を根元から勢いよく引っこ抜き、ルリたんめがけて投げてきた。




『大助視点』


「そんなことよりもねえ、露璃村ろりむらくん。

 今、窓の外に人影が見えなかった」


 姫川さんは豊満なオッパイを俺の右腕に押し付けてきた。


「こんな嵐の中。

 外を歩いているヒトがいるわけないだろう」


「お姉ちゃんが見たのは、落武者の幽霊かもしれないよ」


「殺妹ちゃん、あまり姫川さんを怖がらせるようなことを言うなよ」


「だって、オカルト好きのクラスメイトからそういう話しを聞いたことがあるんだもん。

 今日みたいな嵐の日に出るらしいのよ。

 落武者の幽霊が……きゃあっ!?」


 2階の窓ガラスが割れる音がした。


「きゃあっ!?」


 姫川さんが俺の腰辺りに抱きついてきた。


 そういえば姫川さんって、心霊現象も苦手だったんだけ。


「俺と殺妹ちゃんで、ちょっと見てくる……」


「待って、王子様。

 妾たちも一緒に行くよ。

 理沙さまはどうしますか。

 怖ないなら、ここに残っていただいても構いませんけど」


「こ、怖い!?

 私に怖いものなんてないわよ」


「それは、つまり理沙さまも一緒にいくってことで、よろしいんですね」


「ええ、もちろんよ」


 懐中電灯で辺りを照らしながら、俺たちは慎重に階段をあがっていく。


「ねぇ露璃村ろりむらは、ほんとうに怖くないの?

 オバケとか、幽霊とか、なんかそういうの」


 服の裾をしっかりと掴みながら震えた声で姫川さんが聞いてきた。


「もちろん怖いけど、俺は男だからな。

 男は女を守るモノだろう。

 それに姫川さんにはいつも助けられてるからな。

 たまには男をみせないと『立つ瀬がない』だろう」


「きゃあっ!? ダイスケくん、カッコイイです。

 惚れちゃいそうです」


「強がってる王子様もステキです。

 妾と結婚してください」


「主さまって、ほんとうにモテモテですね。

 あたしも主さまのハーレムに入れてください」


「ロリコン変態野郎は今すぐに死ね。

 階段を踏み外して、死ね」


「落ち着け、ここで暴れたら」


「問答無用!?」


 姫川さんの鋭い攻撃を受け、俺は階段から転げ落ちてしまう。


「ねえ、王子様。

 どこからともなく笛の音色みたいなものが聞こえてこないかしら」


「笛の音色?」


「もしかして、落武者の幽霊が吹いている縦笛のことを言ってるのでしょうか

 落武者の幽霊は子連れで、その子供を寝かしつけるために吹いているとか」


「ちょっと殺妹、怖いこといわないでよ」


「でも、確かに笛の音色が聞こえてくるな」


「……ス……ロス……ダイスケをコロス……ロリムラダイスケヲコロス」


 アサルトナイフを両手でしっかりと握りしめたみちるちゃんが襲いかかってきた。 


 腹でナイフを受け止めて、みちるちゃんの美乳を揉む。


【た、たすけて、おねがい、たすけて……】


 おっぱいの声がこえてきた。


 これぞ、まさに『肉を切らせておっぱいを揉む』という露璃村ろりむらに伝わる家訓を実践みた結果。


 シャレにならないくらいに痛い。


 でも洗脳を解く方法と言えば、遥か昔から『ショック療法』だと相場が決まってるからな。


 俺は……一心不乱にみちるちゃんのおっぱいを揉み続ける。


 するとみちるちゃん手からナイフが離れ。


【カラダを張って、止めてくれてありがとう♥】


 またおっぱいの声が聞こえた。


「きゃあっ!?」


 みちるちゃんの叫び声を上げ、そばに置いてあったバケツに足を引っかけてしまい、彼女は転んでしまう。

 

 白いブラウスって、やっぱり濡れると透けるんだな。


 透けて薄いピンクの下着が見えた。


 胸の4分の3をカバーする、スタンダードなものだな。


 これが……濡れスケ……え、エロいなんてもんじゃない。

 

 ピンクのブラが丸見えだ。


 濡れスケはやっぱり最高だな!


「ああ、もう下着までびっちょびっちょだよ。 

 ……って、主さま……その怪我……どうしたんですか」


「ああ、これは血のりだよ。

 今度やるマジックの練習をしててな」


「そうなんですか?」


「露璃村くんのバカァアアア!?

 どうしていつもムチャばかりするのよ」


「理沙さまの言うとおりだよ。

 もっと自分の命を大切にしなさいよ。

 バカっ!?」


 姫川さんと愛理沙ちゃんが俺のもとに駆け寄ってきた。


「いつも、心配ばかりかけて、ごめんな。

 俺、不器用だからさ。

 こんなやり方しか、思いつかなかったんだ。

 もっとスマートで、カッコよく、解決できたら、良かったんだけどな」


 俺は涙目になっている彼女たちに優しく笑いかける。


「みんなさんが何の話をされているのか?

 よくわかりませんけど。

 今の主さまの姿は、まるで『落武者』みたいですね」


「ぷははははははっ」


 そのセリフを聞いて、俺は思わず笑ってしまう


 めっちゃくっちゃ、傷に響くな。




『ルリエール視点』


「口ほどにもない男だったな」


 邪魔者もいなくなったことだし、ブレーカーでも上げに行こうかな。


 停電したままだと、ダラダラできないもんね。




『大助視点』


「電気がついた」


 あまりの強風で倒木が飛んできたみたいだな。


 俺は、ほっと胸をなでおろす。


 2階の物置はまるで『空き巣』にでもはいられたみたいに、しっちゃかめっちゃかになっていた。


 これは片付けるのが大変そうだな。


「よかった!? お化けじゃなくて……」


 安堵した姫川さんは床にピッタリと座り込んでしまう。


「理沙さまって、意外と怖がりなんだね。

 親しみがもてます」


「そこがまた、お姉ちゃんの可愛らしいところでもあるんです。

 普段とのギャップがたまりませんわ」


 とてもやわらかい笑みを浮かべる愛理沙ちゃんと殺妹ちゃん。


 俺の足元に一枚の写真が飛んできた、どこか見覚えのある公園で小学生高学年の男女が遊具で遊んでいる姿が写っていた。


「こんなところにあったんだ。

 その写真ずっと探してたんだよね」


 姫川さんは、はにかみながら写真を覗き込んできた。


「やっぱり真っ白なワンピースに麦わら帽子をかぶった美少女は姫川さんだったんだな」


「は、恥ずかしいから、あまり……マジマジと見ないでちょうだい」


 でも結局のところ、姫川さんが見た人影の正体はわからないまま『嵐』はさっていてしまった。


 つまり世界にはまだ解明されていない『謎』があるということだ。


 この世界は不思議で満ち溢れているな。

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