第12話 理沙さまのご厚意で、このお屋敷で『メイド』として働かせてもらうことになりました

 大広間。


「理沙さまのご厚意で、メイドとして働かせてもらうことになりました。

 跳姫愛理沙です。

 よろしくね、王子さま♥」


 黒を基調とした小悪魔系ゴズロリメイド服を着た跳姫さん(姉)が声をかけてきた。

 メイド服のスカートはもちろん超ミニサイズで、そこから覗くリングガーターと黒ストッキングが演出するコントラストは、彼女の美脚をより一層キレイに見せてた。


「ああ、こちらこそよろしくな。

 ありさちゃん」


 軽く握手を交わす。


「ああ、自己紹介がまだでしたね。

 般若はんにゃの面をつけていのが、妹の魅血虜みちるです」


 天井の方を指差す。


「お姉ちゃんとどもよろしくお願いします、あるじさま。

 必要とあらば『夜のご奉仕』もさせていただきますので、なんなりとお申し付けください」


 白を基調としたフリフリの清純派メイド服を着た跳姫さん(妹)が声をかけてきた。

 上着は胸の膨らみがピッチリと浮き出たタイトなデザインで、肘までを覆う白いい手袋に、ヘソも両肩も丸出し状態で、一番注目するべきは、首元を覆い隠すよう巻かれた包帯だ。


 まるで忍者だな。


 気が付くと、目の前でかしずいていた。


「じゃあ、さっそくだけ……」


「何っ!? 鼻の下を伸ばしてるのよ。

 このスケコマシ、女の子の敵、変態」


 鮮やかなパーティードレスに身を包んだ姫川さんの必殺の回し蹴りが、わき腹に飛んできた。


 すらりと伸びた綺麗な脚。


 膝を覆い隠すと同時に、艶美さを見せる紺色の靴下と相反する上品そうなハイヒールが相まって、俺の心を震わせ。


 間近に迫る白く柔らかそうな太ももに挟まれたいなと思いながら、その蹴りを受ける瞬間。


 可愛らしいお尻を包むシルク生地パンツが目に飛び込んできた。


「だ、大丈夫ですか、主さま。

 物凄い音がしましたけど、お怪我とかなされていませんか?」


「ああ、大丈夫だ。

 いつものことだからな」


「もしかして、主さまってドMの方なんですか?」


「姫川さんに蹴られたり、殴られたり、叩かれたりするのは『好き』だけど、断じて『ドM』ではない」


「ふははは。

 王子様って、やっぱり面白いヒトですね。

 でも、ウチの妹も女の魅力という点では負けていませんよ」


 そこでいきなりありさちゃんの両手が素早く、メイド服のスカートを捲り上げ、健康的な太股が目に飛び込んできた。


 しかもスカートの下に穿いていたのは、もはや絶滅危惧種となった『紺色のブルマ』だった。


 あまりに唐突な出来事に『みちるちゃん』は言葉を忘れ。


 俺も唖然と瞬くことしかできなかった。


 そして数秒差で我に返った『みちるちゃん』は、慌ててスカートを押さえ、顔をボッと赤くする。


「お、お姉ちゃん!?

 いきなり何をするんですか」


「アピールよ、アピール。

 しっかりとアピールしておかないとね。

 なんせ、世界の王になる方らしいからね」


「世界の王ですか。

 それは大きく出ましたね。

 でも、主さまならきっとなれると思います。

 だって、あたしたちを地獄から救い出してくれましたから。

 あとこれは、これからお世話になる、あたしたちからプレゼントです。

 お金がないからこんなものでごめんなさい」


 みちるちゃんは背中に隠していた『春の七草を編んで作ったかんむり』を差し出した。


「ありがとう、みちるちゃん」


 俺は反射的に彼女の頭をでてしまう。


 マズイか、と思ったが、彼女は嫌がるどころか嬉しそうに顔をほころばせる。


「えへへ」


 その笑みを見た俺は、若草の匂いのする花冠を頭上に乗せ。


「どうかな、似合うかな」


「ええ、とても似ていますよ、主さま」


 柔らかい笑みを浮かべてみちるちゃんは、俺の右頬にキスをしてきた。


 なんだろうか、この強烈なまでの既視感きしかんは――――ああ、そうだな。


 犬だ。


 ペットショップとかに売られている『わんこ』と、目の前にいる『少女』から受ける印象が非常に酷似しているんだ。


 勝手になついてきて、一方的に好意を寄せてくる感じが、非常に似通っているんだ。


「じゃあ、そろそろ歓迎パーティーを始めるわよ」


 パーティードレスに身を包んだ殺妹あやめちゃんが、白い正方形の箱を渡してきた。


中に入っていたのは、普通にお店に売っていそうな『ケーキ』だった。


「そうだな」


 テーブルに置かれたチョコレートケーキを囲んで、ささやかな誕生日パーティーが行われていた。


「愛理沙お姉ちゃん、愛理沙お姉ちゃん、あたしこんなご馳走!? 初めて見たよ。

 こんな美味しいそうなお肉を調達できるなんて、理沙さまって本物のお嬢さまだったんだね」


 みちるちゃんが、見入っているのは白い皿に載せられた肉のかたまり――こんがりこげ茶色の焼き目がついた分厚いステーキだ。


 表面は肉汁で光りまくり、見るからにあぶらがのっている。


 いんげんソテーとフライドポテト。


 フカヒレのスープに真鯛の刺し身といた高級料理がテーブルに並んでいた。


「ごめんなさい、理沙さま。

 妹が失礼な……」


「別に気にしなくてもいいのよ。

 よく言われるから、ぜんぜんお嬢さまらしくないって」


「愛理沙お姉ちゃん、殺妹ちゃんが作れたケーキめちゃくちゃ美味しいよ。

 愛理沙お姉ちゃんも早く食べないとなくなっちゃうよ」


「本当に妹がすみません」


 幸せそうに顔をほころばせてみちるちゃん。


 妹のために頭を下げるありさちゃん。


 ほんとうに微笑ましい姉妹だな。


「だから気にしなく……べちゃ……こら、殺妹!?

 食べ物を投げるんじゃないわよ」


「だってお姉ちゃん。

 ケーキ投げはパーティーの定番イベント」


「それを言うなら『パイ投げ』じゃないのか」


「そんなのどっちでもいい――――――きゃあ!? 停電!?

 嘘でしょう、イヤ、イヤ、イヤアアア」


 姫川さんの悲鳴が聞こえた。


「真っ暗で何も見えないよ、コワいよ、王子様♥」


 続けて愛理沙ちゃんの声も聞こえてきた。


「二人とも落ち着け。

 暗闇に目が慣れないうちに、動くのは危険だ」


 言ってるそばから姫川さんが倒れ込んできた。


「イテテテッ」


「ごめんなさい。

 私としたことが、ちょっと冷静さを欠いていたわ」


 そういえば、姫川さんって暗闇が苦手だったんだっけ。


「ものすごい音がしましたけど大丈夫ですか。

 主さま、理沙さま。

 おケガとかされていませんか?

 どこか痛むところとかはありませんか?」


露璃村ろりむらくんがクッションになってくれたから、私は平気だよ」


「ああ、俺も大丈夫だ。

 ケガはしていない」


「でも念のために確認させてください。

 主さまにもしものことがあったら大変ですのね」


 みちるちゃんはやや屈んだ姿勢で、コチラを心配そうな顔をして覗き込んできた。


 彼女の手には懐中電灯が握られている。


 目と鼻の先ぐらいに少女の端正な顔があり、思わず見惚れてしまう。


 銀髪からはラベンダーの香りがした。


「みちるちゃんも心配性だな」

「いいから、ジッとしててください。

 確かにどこも怪我していないみたいね。良かった」


 はにかみながらもしおらしく言う彼女は可愛らしく、思わず見惚れてしまうほどだ。


「だから私以外の女の子をエロい眼で見るんじゃないわよ」


 ズビシッ、脳天チョップがとんできた。


「その言い方だと姫川さんのことはエロい目で見ていいのかよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る