第10話 オリエンテーション。

『???視点』


 人工島。


 研究室では、四角いホログラム・ディスプレイが何枚も浮かんでいる。


 その中心にいるのは、16歳ほどの双子の少女だ。


 うっすら膨らんだ胸にかぶさる絹糸のような白銀の髪が、ホログラム・ディスプレイの光に青くぼんやりと照らされ。


「もうすぐ、もうすぐだ!? 

 吾輩のことを……認めようとしなかった……排他的で愚論な世界に……復讐することができる……こんな……世界、滅んでしまえば……いいんだ」


 一糸まとわぬ、その華奢なカラダは宙に浮いていた。


 身じろぎもせず瞳を閉じたままの彼女は『他律型魔法生物ゴーレム』だ。


 指示、命令を与えることで行動可能な魔法生物ゴーレム


 外見こそヒトと同じであるが意識を持たない。


 吾輩は右の拳を握り締めてポージングを決めた後。


 術式プログラムの最後の設定を終える。


「終焉の獣よ。

 目覚めの時間だ」


 ホログラム・ディスプレイが吸い込まれるように次々と他律型魔法生物ゴーレムのカラダのなかに消えていき、浮遊していた足がゆっくりと床につく。


 彼女は瞳を開け、静かに声を発した。


「これより、世界への復讐を開始します」




++++++++++++++++++++++




 オリエンテーション。


 それは高校生活に慣れはじめた頃に行われるとてもめんどくさいイベントである。


 パンフレットが配られて、集合時間や目的地、宿泊先や荷物等に関する説明を受けた日の帰り道。


 俺と姫川さんは駅前の複合商業施設に寄った。 


「明日から3日間、山歩きだね。

 防虫対策はしっかりとしておかないとね。

 スズメバチに襲われる危険性もゼロじゃないもんね」


「ああ、そうだな。

 備えあれば憂いなし、という言葉もあるしな。

 とは言え学校行事で、そんな危険なところに行くとは思えないけどな」


 苦笑いを浮かべながら虫よけスプレーを買い物が入れる。


「あと忘れちゃいけないのが、画材道具よね。

 ここはほんとうに品ぞろえがいいわよね。

 しかも質の良いモノばかりだから迷っちゃうわぁ」


「俺は学校から支給されるモノでいいかな。

 別にこだわりとかないし」


「露璃村がそれでいいなら、私はとやかく言うつもりはないわ」


 姫川さんは画板やパレット、絵筆や絵の具などを、買い物かごに次々と入れていく。


 写生大会で優勝した作品は、なんと『銭湯の壁絵』になるらしいからな。


 凄いよな。


 まあ、俺には関係のない話だけどな。


 だって優勝するのは、殺妹ちゃんに決まっているからな。


 だからと言って手を抜くつもりはない。


 ふざけた絵を描いたら、間違いなく姫川さんに殺される。


 生き残るためには、彼女の心が動くような絵を描かなければならないわけだ。


 ああ、胃が痛くなってきた。


 まったくもって情けないな。 


「あそこにいるのって『跳姫ちょうひめ愛理沙ありさ』さんじゃないかな?」


 姫川さんが声を上げた方に視線を向けると。


 そこにはーーフリルやギャザーの多いゴッシクロリータ調の華やかなデザインの衣装を身に纏った、儚げな少女が佇んでいた。


 ツインテールにまとめられた長い銀色の髪。


 どことなく金属的で冷徹な雰囲気を発している。


 真っ白な肌は陶製とうせい人形めいた冷たさを感じさせ。


 スリムなのを通り越して病的な細さだ。


棒のように細い手には、そこらかしこに生傷がつき、包帯や絆創膏がごまかすように貼ってある。


 目元には白い包帯が巻かれていた。


「俺の知らない名前だな。

 姫川さんの知り合いか?」


「知り合いってわけじゃないけど……。

 ある意味、彼女は……私以上の有名人よ。

 数千年に一度産まれるか? 産まれないか、というほどの天才児で、銀竜院組の組長の娘さん。

 盲目の芸術家こと白銀はくぎん夜叉姫やしゃひめ

 使う道具は『彫刻刀』。ヒトを小馬鹿にしたような薄笑いをいつも浮かべていて。

 あの包帯の下には、刺青が入ってるんだって、実の父親に彫られた『龍の刺青』が!?」


 姫川さんは言いたいことは、素直に言うタイプだ。


 率直すぎるところが、同世代の女子に嫌われる要因にもなっているけど。


 裏を返せば彼女は、嘘はつかないし、正直者だ。


白銀はくぎん夜叉姫やしゃひめ

 その『二つ名』なら俺も聞いたことがあるぞ!

 版画職人なんだろう。

 今時、珍しいよな。

 でも、可笑しいな!? あれだけの美少女ならーーーー」


「あ、それはね~~~。

 ほら、彼女って編入生で『美術室』登校だから。

 特待生で、授業は免除されていて、美術室にこもって一日中絵を描いているって噂よ」


「天才セレブ美少女、キタァアアアっ!?」


「急に叫び声を上げないでよ」


 一本一本まで手入れされていそうなサラサラの長い金髪を靡かせ、鋭い眼光を宿した可愛らしい金色の瞳で俺を睨めつけ。


 制服を大きく押し上げる乳房は『巨乳』という言葉では、まだ足りないほどに大きく、豊満な胸がぷるんっと大きく揺れ。


 ふわりっとミニスカートを翻し、目の前には真っ白な太もも、魅惑的な脚の付け根。


 そして足の合間から『純白の物体』が覗き見えた。


 丸みを帯びたお尻を包む純白の逆三角形が姿を現す。 


 ヘソまで隠れる子供パンツだ。


 通称:女児ぱんつだ。

 

 それは刹那が生み出した、衝撃の一瞬。


 ちんまりとしたカラダをしているのに、恐ろしいほどの破壊力を秘めた蹴りが顔面に迫ってきた。


 跳躍的な筋肉が織りなす蠱惑的な曲線に、俺の視線はいとも簡単に捕獲されも、間一髪のところで背を反らし避ける。


「……白か?」


 俺の目に入ってきた鮮やかな下着の色。


 しかもお嬢様なのに、シルクいった高級素材ではなく、木綿100%とのショーツを穿いていた。


 そのギャップにドキっとした♥


 また『パンチラ』はラブコメのお約束だ。


 パンチラには、男の夢とロマンと野望がつまってるからな。


 今の光景をしっかりと目に焼き付けておかないとな。


「きゃあっ……何、見てるのよ!? 変態」


 キッ! とキツイ視線でこちらを睨みつけ、ふしゃーと猫が威嚇するように怒っている。


 軽やかな体重移動。


 脚の動きは、緩やかながら決して隙のない「型」であった。


 そして蹴りがくり出されるつど、短いスカートがチラチラとめくれ、純白のショーツを垣間見ることができた。 

 

「落ち着け」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいぃいいいいっ!?」


 全ての蹴りを紙一重で交わしながら手を前に突き出し、話し合いを求めるもあっさりと無視され。


 腐った性根を叩き直すように振りぬいた左足を軸足に切り替え、制服のスカートを翻して、俺の方へ鉄槌のような踵を突き出した。


 俺は素早く背後にまわりこみ、極上のおっぱいを揉む。


【また他の女のに目移りして、信じられないわ。

 私って……そんなに魅力がないのかしら】


 おっぱいの声が聞こえてきた。


「これまでさまざまなおっぱいを揉んできたけど、やっぱり姫川さんのおっぱいが一番好きだな」


「な、な、ななな、なに……さらりと恥ずかしいこと言ってるのよっ。バカァアアア~」


 羞恥で顔を赤くして、姫川さんは自分の胸元を隠す。


 制服に皺が寄る。


 脇を締めたせいで胸の肉がキュっと集まり、ただでさえ大きなオッパイがより大きく見えた。


「悪い!? つい、興奮してしまった。

 今のは、忘れてくれ」


「それは別にいいけど。

 私の方こそいろいろと取り乱しちゃってごめん。

 それからこのあと雑貨のほうも見ていいかな?」


「特にこれから用事があるわけでもないし、俺は構わないけど。

 何か欲しいものでもあるのか」


「うん、ちょっと、妹と口論になっちゃって……お気に入りのティーカップを割っちゃったのよ。

 あはは……それでね、新しいティーカップを探してるんだけど。

 ポットにも合わせたいな~と思ったら、ちょっとハードルが上がっちゃって。

 だから露璃村ろりむらの意見も聞かせてもらえると嬉しいな」


 雑貨コーナ


「やっぱり場違い感がスゴイな!?」


 色とりどりな小物やハンカチ、アクセサリーなどが所狭しと、陳列されているな。


 店内にいる人も、見事に女性ばかりだ。


「わあ、カワイイ」


 猫の絵柄が描かれたマグカップを見て、姫川さんが少し声のトーンを上げた。


 やっぱり女の子だな。


「これなんかどうかな? 

 これなら猫柄のティーポットにも合うんじゃないのかな」


「三毛猫か? 何でこれにしようと思ったのかな」


「目についたからかな。

 あとは……どことなく姫川さんに似てるからかな」


「なにそれ、うふふっ。

 うん。決めた!? コレ、買ってくるわぁ」


 会計を済ませた姫川さんがスキップで戻ってきた。


「買い物したあとって、何かワクワクした気持ちになるわねぇ」


「ああ、そうだな」


 楽しそうにしている彼女の顔を見たら、このまま帰るのは、もったいない気がして。


 屋敷に帰っても、特にしたいこともなかったので。


「じゃあ、しばらく一緒にぶらぶらしてみるか?」


「ええ、そうするわ」


 と言う感じの流れで、俺たちはしばらく駅前を歩いて回った。


 お金はなくても、あちこちウインドウショッピングするだけでも結構、楽しいものだ。


「懐かしいわね!? 

 昔はよくこの公園で遊んだよね」


「ああ、そうだな。

 滑り台とか、鉄棒とか、ブランコとか色んな遊具で遊んだな」


「ブランコの二人乗りや、靴投げ競争は楽しかったわね。

 逆上がりができなくて、泣き出したこともあったわよね」


「そんなこともあったな。

 当時から理沙は運動神経が良かったからな」


「露璃村くんは何をやってもダメダメだったわね。

 でも、ずっと一緒に居てくれた。

 それがとても嬉しかったわ」


「姫川さんは友達を作るだけはヘタだったからな」


 俺たちは駅前にある古びた公園を訪れている。


 だが、当時の面影はまるで感じられなかった。


 遊具の塗料は剥がれてるし、何よりも草がスゴイ。


「あそこで草むしりをしているヒトがいます。

 私たちも手伝いましょう」


「はぁ~。仕方ないな。

 姫川さんは言い出したら聞かないからな」


「ありがとう、露璃村くん」


「おじさん、私たちも手伝います。

 ひとりでは大変でしょう。

 軍手とかお借りしてもよろしいでしょうか」


「それは構わないけど……お礼とかはできないよ」


「そういうお気遣いは、いりません。

 この公園には、思い出があるので。

 お手伝いしたいと思っただけです」


「まあ、そういうことだから。

 オジサンは、ラクができて嬉しいぐらいに思っておけばいいんだよ」


「いまどき珍しい若者だな」


 それから日が暮れるまで、黙々と草むしりに精を出した。


 草むしりとは、奥が深いものなんだな。


 力任せに引っこ抜こうとしてもダメ出し、へっぴり腰でもダメ。


 コツをつかむまでに人一倍時間がかかってしまった。


「龍一、見て!?

 夕陽がとてもキレイだよ。

 ここから見える夕陽は、あの頃と何も変わらないね」


 草むしりを終え。


 鉄棒の上に座った理沙が声を上げる。


 夕陽を見つめる理沙は幻想的で、美して。


「そう叫ぶ、理沙もあの頃のまま……」


「それって、私が全然成長していないって言いたいわけ」


 理沙は鉄棒から飛び降りて、俺に詰め寄ってきた。


「そうじゃないよ」


「じゃあ、なんなのよ」


「理沙は純粋無垢でカワイイな~~~と思って」


「ば、バカっ!? 何っ、恥ずかしいこと言ってるのよ」


「そういうピュアなところが好きなんだよな」


「アゲハだ!?」


 蝶を追いかける姫川さんは姿は、昔と何も変わってないピュアで可愛らしいものだった。


 姫川さんとじゃれあった後。


 オジサンに後片付けを任せて、俺たちは帰路に着いた。


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