世界の中にいずれ嘘を。

エリー.ファー

世界の中にいずれ嘘を。

 勇者ではないけれど、勇者だと名乗った。

 与えられた村人という役目に飽きたのではない。そういうものだと勝手に、自分の中で認識したのである。

 自分は、勇者である、そう思い込むことにした。

 誰にも正体を明かさないので、この嘘に向かってくる、正論はない。

 議論をしないので、異論はない。

 私の中で全会一致だった。

 勇者が生まれなかったら、世界は滅ぶそうだ。

 そんなことは分かっているのに、外の世界に出たいと考える者は少なかった。

 おそらく、だが。

 勇者はおそらく生を受けたのだ。だが、出てくる気を無くしたのではないか。仮に天命を授かっても勇者として活動するかどうかは、本人の希望によるところである。

 口にさえ出さなければ勇者も村人である。

 もちろん。

 この場合も。

 議論をしないので、異論はない。

「勇者になるんだな。お前は。」

「あぁ。私は勇者ということになった。魔王を倒してくる。」

「そうか、友達としてずっとそばに居たいけど、俺はここから出られないよ、ただの村人だしな。」

「あぁ。分かってる。私はもう勇者だ。一人で旅立つよ。」

「なぁ。」

「なんだ。」

「本当に、お前は勇者としての天命を受けたのか。こんなの自己主張以外証拠のがないから、その。」

「私の言うことが信じられないか。」

「いや。俺は、お前のことを信じるけどさ。」

「じゃあ、私が勇者でいいだろう。」

 窓から入って来る風はどう考えても、生臭く、少しばかり遠くに巣をつくった魔物たちの体臭であることが分かる。

 こちらには攻めてこないが、伺っていることは分かる。

 いつか、誰かが退治しなければならない。

「俺さ、天命を受けたんだ。勇者として。」

 私は手を止めた。

「俺、ずっと、黙ってたんだ。」

 私は手を動かし始める。

 荷物は間もなく揃うだろう。

「俺さ、本当は、勇気がなくて、言い出せなかった。でも、そんな時、お前が勇者だってそう言って、俺の代わりに勇者になった。お前っ、本当は。」

「言うなよ。」

「俺のことを思って、身代わりに。」

 私は無言で窓の外を眺める。

 空を雲が流れていく。

 いつもより、早かった。

 私は長く息を吐いた。

 いた。

 いたのか。

 ここにいた。

 すっごく身近にいた。

 ちょっと調子に乗って、勘違いして勇者名乗ったら。

 近くに。

 本物の勇者いた。

 天命受けた、マジもんの勇者、いた。

 はっず。

 はっず、私。

 私、超はっず。

「お、俺の調子がおかしいのを察して、俺の代わりに勇者になるって身代わりになってくれたんだろ。」

 そんなわけねぇだろ。

 目立ちてぇからだよ。

 魔王倒して。

 目立ちてぇからだよ。

 勇者よ旅立つのじゃ。

 とか、言われて。

 目立ちてぇからだよ。

 それ以外あるわけねぇだろ。

「道中は危険だと聞く。お前っ、それでも行くのか。」

 行くよ。

 目立つためなら。

 行くよ。

 何回だって行くよ。

 どうせ、死んだって、一番最近通った教会からリスタートだろ。

 何がこえぇんだよ。

 もう、その設定のおかげで道中なんか危険でもなんでもねぇよ。

 経験値引継ぎだし、ゴールド引き継ぎだし、グッズ引き継ぎだし。

 死ぬの前提で敵殺して、経験値もらってのレベルアップさえしてたらどうにかなるよ。

 行くよ。

 そりゃ、行くよ。

「俺は、お前のこと尊敬するよ。すごいな、お前こそ本当の勇者だな。」

「違う。」

「え。」

「私は勇者じゃない。」

「じゃあ。」

「これから勇者になりに行くのさ。」

 うわー。

 言いたかったやつ。

 これ、超言いたかったやつ。

 言えたーーーー。

 このシーン何度も体験したいからこれだけ別のスロットにセーブしとこ。

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