5-13 続・スイーツサテライト at FF21

 テレビ局の関係者が慌ただしく撤収していく中、プリン・サテライトのエグザのブースに「最後尾はこちらです」の手持ちの看板を持った販売スタッフが現れた。


 少し緊張した面持ちの彼女は、まだ中継の熱気が覚めやらないブース内をグルッと見回すと、その場に残っていた観衆に大きな声で呼びかける。


「ただいまより、こちらで整理券の配布を行います! 先着50名様。新製品『二色のプリンキャラメル』や、イベント限定『カスタードプリン味&焦がしカラメル味・ポップコーンTWIN缶』他、エグザお勧めのスイーツの詰め合わせ福袋をご購入頂くための、スペシャルな整理券です」


 彼女が整理券配布の告知をしている間、さらに数名のエグザの販売スタッフが、何故か行列整理用のパーテーションを守る形で立ち並ぶ。


〈なんだ福袋か。もうプリンくんもいなくなっちゃたし、他を見て回る?〉


〈待って。たかが福袋に整理券の配布っておかしくない? スペシャルとか言ってるし、これは何かあるとみた〉


〈ふーん。壁ドン記念に買ってもいいけど、並ぶほど?〉


「販売の際には、先程登場されたエグザCMでお馴染みの武田結星さんの『握手券』付きで、お客様お一人お一人に福袋を手渡し致し……」


 販売スタッフがセリフを全て言い終わる前に、ドドドドドーーッ! と地響きがするのではないかと錯覚するほど、整理券の配布場所に一気に人が押し寄せた。


 それを販売スタッフたちが、身体を張って臨戦態勢で誘導する。


「走ると危険です! パーテーションに沿ってお並び下さい!」


「こちらから一列にお並び下さい!」


〈握手券。握手券って言ったよね?〉


〈言った。絶対に言った!〉


〈先着50名! 入れた? この位置ならいけるかな?〉


 あっという間に完成した長い行列。素早く人数を数え始める販売スタッフ。先着枠に入れた者は歓声を上げ、惜しくも漏れた者は涙目になる悲喜こもごもな光景。


 そしてそこで、肝心な点を聞いていないことにハッと気づいた勝利者側の面々が、互いの顔を見ながら確認し始めた。


〈ところで福袋の値段っていくら?〉


〈手持ちで足りるかな? エグザだからボッタクリはしないと思いたい〉


〈まさか五桁ってことはないよね? それでも払うけど〉


「では、改めて福袋の説明をさせて頂きます。福袋の内容は、新製品『二色のプリンキャラメル』の特大ギフトボックス、イベント限定『カスタードプリン味&焦がしカラメル味・ポップコーンTWIN缶』、同じくイベント限定『プリンソフトクリーム』の引き換え券。さらに、エグザの人気のお菓子を詰め合わせたバラエティパックを加え、総額3500円以上の品々です! それをなんと3000円ジャストでご提供! 非常にお得な内容になっています」


〈普通にお得じゃん。握手券付きなら激安〉


〈それより早よ、握手券の詳細を早よ!〉


「販売の際には、エグザのキャンペーンボーイである武田結星さんが、お客様お一人お一人に感謝の気持ちを込めた握手のプレゼント、そして直に商品の手渡しをさせて頂きます」


〈やったーーっ! 握手確定!〉


〈半裸くんを間近でガン見して握手して3000円ポッキリ。神か!〉


〈整理券取れなかったけど、遠くから眺めるだけでもいい。観に来ようかな〉


「これから配布する第一回の福袋販売会は午後一時からになります。その際に、別途受付にて第二回の福袋販売会の整理券配布を予定しています。今回惜しくも逃された方は、次の機会をご利用下さい」


〈なぬ? 第二回! 敗者ふっかーーっつ! 次こそ頑張るから!〉


〈絶対に取りにいくには、いつから並べばいい?〉


〈今でしょ!〉


「なお、第二回福袋販売会の整理券配布にお並び頂くのは、正午以降にお願い申し上げます」


 *


 テレビ局の人たちへ挨拶を済ませて控室に戻った。


「お帰りなさい。凄くよかったわよ、壁ドン!」


「テレビスタジオでも予想以上にトークが引っ張られて、試食しながら笑いを取っていたわ。おかげさまで露出はバッチリよ」


「あれ、サプライズだったんですね。レポーターさんが素で驚いていました」


「ごめんね。ディレクターさんから、結星くんにも内緒にしておいて欲しいって言われたの。でも、うろたえるレポーターさんに迫る結星くんが、男っぽくてめっちゃ格好良かった」


 そう言ってもらえるのは嬉しいけど、生放送でのサプライズにはかなり冷や冷やした。


「時間内に指示通りにやって、ちゃんとセリフを言わなきゃって、俺的には、もういっぱいいっぱいでした。生放送って大変ですね」


「結星くんなら、決めてくれると思ってた。お疲れ様。トークショーまでは、ここでのんびりしていてね。用意してあるオヤツや飲み物は勝手に食べていいから。それと後で、プリンソフトクリームも差し入れしてもらう手筈になっているのよ」


 わーい。プリンソフトクリームだって! 我ながら現金だけど、これは嬉しい。


 控室にはエグザのお菓子が沢山積んであって、甘いのもしょっぱいのも食べ放題&飲み放題。それだけでも天国なのにね。


「ソフトクリームは気になってたんです。すっごく楽しみだな」


「結星くん、甘党だものね……おっと見て見て。そろそろ告知が始まるわよ」


「整理券の配布のですか?」


「そう。確実に混乱が起きそうだけど、ここはスタッフの奮闘に期待」


「福袋はお得ですよね。でも、俺の握手券なんていります?」


「もちろん! それが目玉なんだから、争いが起きるわよ。絶対に」


「そうそう。握手券だけでも需要はあるわ。ほら」


 うわっ! 本当だ。沢山並んでくれてる。


 あそこに並んでくれている人たちーーもちろん全員女性で。あんなに大勢の女性と握手をするなんて、ちょっとドキドキの体験だ。だけど、こうして並んでまで買ってくれたわけだから、誠心誠意、感謝の気持ちを込めて握手しようっと。



 緊張のトークショーを終えて再び控室へ。正午を少し回っているので、お昼ご飯が待っているはず。そして控室に入ると、そこには父さんの姿があった。


「結星、トークショーよかったよ。僕も楽しんで聞いちゃった」


「本当に? そう言ってもらえると嬉しいけど、身内に言われるとめっちゃ照れるというか」


「自分と似ている息子に言うのもなんだけど、結星は笑顔がいいね。惚れ惚れしたよ」


 そう言って屈託なく笑う父さんを、潤さんと頼子さんがポーッとなって見ている。うわぁ。こんな場所でも人タラシしてますよ、この人。いけないオジサンだ。


「結星とランチを一緒にしたくて来たんだ。ケータリングのお弁当だけどね。でもここいいね。お菓子食べ放題なの? ずっと居座っちゃおうかな」


「うん、食べ放題だって。甘いの、しょっぱいのって交互に食べてると、マジで止まらなくなるよ」


「じゃあ食後は結星と、こちらの素敵な女性お二人と一緒に茶飲み話でもしますか」


「「是非!」」


 父さん……なるほど、モテるわけです。

 

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