第7話 なのにA組


 ここでちょっと、これまでに分かった学校の事情を整理しておきたい。


 俺が通うことになったこの「栄華秀英学園」は「男性優遇措置校」と呼ばれる特殊な私立学校だった。


「男性優遇措置」っていうのは、男子生徒にとっては、学費が減額または免除になったり、家庭の事情を配慮してくれたりと、至れり尽くせりのありがたい制度だ。


 だけど一方の女子生徒にとっては、その意味するところが全く違うものだった。


 1学年 6クラス 150人。


 1クラス 25人 うち、男子 0-5人。


 女子クラスと男女混合クラスがある。


 ・A組-C組 男女混合クラス(男女比率 1:4 )


 ・D組-F組 女子クラス


 1学年に男子は約13-15人しかいなくて、学期末ごとにクラス替えがある。そのクラス換えの基準となるのは学業成績。上から順にA組、B組、C組……と振り分けられる。


 ……それも女子だけ。


 この学園の女子って、もの凄く偏差値が高いんだって。特にA組にいる女生徒なんて全員才女と言っていい。


 難関大学への合格率も、当然のことながら凄く高い。よく俺を入れてくれたなって思うけど、男子は学校の授業についていけるくらいの学力があればいいらしい。


 もし成績不振なら、無料で補習してくれるし、それでもダメなら、別枠で再試をしてくれるって。そんな風に、フォロー体制もバッチリと整っている。さすが男性優遇措置校。


 そんなので、大学進学はどうするんだって思うだろ?


 そこはうまくできていて、どんな難関大学でも、男性と女性は募集枠が別。よほど学力的にかけ離れていない限り、男子は全員、推薦入試で希望する大学に進学できる。


 さすがに、全く自由に選べるってわけじゃないらしいんだけどね。


 推薦入試を利用する場合は、男子が一極集中しないように、マッチングシステムっていう振り分けシステムに従わないといけない。


 といっても、男子生徒の数は少ないから、だいたいは希望が通るらしい。


 でも、女子は大変。


 学期末のクラス分けテストの結果で、成績評価が概ね定まってしまうという、とてもシビアなシステムだ。それに、学年の上半分に入らないと、男子と同じクラスにはなれない。


 それがいい刺激になって、毎回毎回、クラス分けテストの度に、熾烈な競争が繰り広げられるそうだ。


 いやいや。自ら女子クラスを希望する生徒だっているはずでしょ?


 俺もそう思った。


 でも、それはそれで別に学校があるんだって。女子だけの学校、いわゆる女子校ってやつが。


 女子だけのクラスを希望する場合は、まずこの「栄華秀英学園」は受験しない。


 女子校だったら、わざわざ学費の高いこの学園を選ばなくても、超難関校から、おっとりとしたお嬢様学校まで、いくらでも選択肢はあるから。


 ◇ ◇ ◇


「ごちそうさま」


「俺が片付けておくから、風呂に入っちゃえば?」


「えー。でも……」


「結衣は、買い物と料理をしてくれたじゃないか。片付けくらい俺がやるよ。今日も勉強するんだろ?」


「うん。じゃあ、お願いしちゃおうかな。ありがとう、お兄ちゃん」


 俺の「家庭の事情」で、学園の中等部に転入した結衣は、現在F組にいる。俺と違って転入の際にはしっかり学科試験があり、その結果今のクラスになったそうだ。


 それがとても悔しかったらしくて、今、結衣はすごくやる気になっている。毎日夜遅くまで、授業の予習復習をするようになった。


 兄としては応援したいが、俺、それほど勉強得意ってわけでもないし。


 なのにA組。


 学校のシステムとはいえ、あのクラスにいていいのかなって思うんだけど、そういう仕様だから従うしかないんだって。


「お兄ちゃんがC組とかだったら、大変。女子が混乱するから、そのままA組でいいと思う。っていうか、A組以外ありえない」


 結衣にそう断言されてしまった。


 ◇


 さっき、男子生徒は1学年に約13-15人って言ったけど、男子生徒の配置はA組優先になっている。


 まずA組に5人。B組もだいたい5人。C組は3-5人。


 そんな感じで、A5人・B4-5人・C3-5人と振り分けるのが基本になっていて、男子生徒は1クラスに必ず3人以上。そういう決まりがあるんだって。それ以上減らすと、男子生徒の退学率が上がるから。そういうことらしい。


 で、俺の入ったA組は、現在俺を含めて男子は5人。


 だからあれ? って思った。


 実は2年A組には、4月まではちゃんと男子生徒が5人いたらしい。ところが、5月のゴールデンウィークが明けたら、1人退学していて4人に減っていたそうだ。


 やめちゃったのは、今川くんっていう、女子に大人気だった綺麗系イケメンらしいんだけど、なんと退学理由は「結婚」。寿退社ならぬ寿退学。これには驚いた。


 この世界、男女共に16歳以上なら結婚できるそうだ。


 それでも普通なら「通い婚」が常だから、結婚しても学校に通い続けることが一般的らしい。今川くんは例外的な存在で、大層由緒ある家のお坊っちゃまだそうで、同じく大層由緒ある家柄の女性と1:1の同居婚をしたんだそうだ。


 16歳で結婚か。


 家柄がいいのも大変だなって、思った。


 ……だけど、それは俺の認識の方が間違っていたらしい。


 俺が今川くんの寿退学に驚いていると、他の4人が不思議そうな顔をするので、まさかと思って聞いてみたら、まさかの本当。俺を除く4人の内、1人が既婚者で、残りの3人のうち2人に婚約者がいた。


 えーーーっ! それってあり?


 ……ありなんだって。


 この世界の結婚システムでは、男性は概ね早婚。


 結婚可能年齢になると、早々に最初の婚約をするのは割と普通。場合によっては結婚。そして、高校を卒業する頃になると、次々に学生結婚(重婚)をしていくらしい。つまり、この世界の結婚は「早い者勝ち」なんだ。


 こんなの「通い婚」ならではだよね。


 この男性優遇措置校は、婚活OK。そして、かなりの高確率でカップルが出来上がっていくんだって。


 なぜなら、男1:女12(最大数)まで重婚可能だから。


 男子生徒が1人いれば、最大12人の女子生徒に結婚のチャンスがある。この学年の男子生徒は、俺が入って13人になった。


 単純計算で、13×12=156人。


 1学年150人で、男子13人、女子137人。この男性が少ない世界で、1学年の女子生徒数より、男子生徒の有する婚姻枠の数の方が多い。これは、結婚を望む女性にとっては、非常に魅力的な環境であるということを示している。


 それがこの学園を超難関校にのし上げた、大きな原動力だった。

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