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 お客様である彼女に、真君との離婚理由など聞けるはずもない。


 真君との間に授かった二人の子供は、真君が引き取り育てているのだろうか。


 彼女は二着で六万円以上もするドレスを購入すると、カードで支払いをすませた。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


 彼女は子供達を先に外に出し、ゆっくりと振り返った。


「西本さんは二人の子供を引き取りました。長女は十四歳、長男は十三歳、彼はまだ再婚していないと思います」


「そうですか」


 鼓動がトクトクと脈を打ち早鐘のように音を鳴らす。


 彼女は一体何が言いたいのだろう。


「私は狡い女です。自分だけ自由になり、西本さんを家庭に縛り付けた。西本さんが私を忘れ、誰かと幸せになるのが許せなかった。その気持ちは今でも変わりません」


 彼女の気迫に、思わず言葉をのみ込んだ。


「でも気が変わったの。いつまでも西本さんが私のことを気に掛けていることが、迷惑なんです」


「……迷惑……ですか?」


 彼女は私に視線を向けた。その眼差しに私は冷静ではいられない。


「真は今でもきっと……」


 数秒、間を開けて、彼女は言葉を続けた。


「……あなたのことを想っていますよ」


 彼女は私に会釈すると、ショップを出て子供達と手を繋いで立ち去った。


 ――『あなたのことを想っていますよ』


 その言葉が何度も脳内を渦巻く。


 真君が……私を……?

 まさか……私達はもうそんな関係ではない。


 私は彼女の言葉に困惑する。


 心の中に封印していた想いが少しずつ溢れ出し、呼吸することも苦しい。


 ――真君が……離婚した……。


 だから、どうだっていうの。

 彼女が再婚しているなら、真君だって再婚しているかもしれない。


 バカな私。何を考えているのよ……。


 お客様で混雑する店内。

 私は足早に社長室に入りドアを閉める。


 今さら真君に逢うことも、想いを伝えることもできない。


 あれはもう過去の出来事。


 真君と私は……

 十四年前のあの日に終わってしまったのだから。

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