136

 切なさと苦しさと申し訳なさが胸に込み上げ、涙が零れ落ちた。


 ごめんなさい……。


 ごめんなさい……。


 何度も何度も心の中で真君に謝った。


 真君と一緒に、生きていきたかったよ。

 ずっと一緒にいたかった。


 でも……もう無理だから……。


 私は……

 本宮と離婚することは出来ない。


 泣いている真君に私は触れることが出来なかった。触れてしまうと、心が揺れてしまうから……。


「真君、さようなら」


 私はこれ以上真君と向かい合っていることが辛くて、玄関に向かう。


「……礼さん」


 真君は私の手を掴んだ。


「もう……何も言わないで。もう決めたことだから」


「礼……」


 真君が背後から私を抱き締めた。


 だめだよ……

 こんなことしないで……。


 本宮の元に……戻れなくなる……。


「……真君、離して」


「嫌だ、離さない。行かないでくれ。……頼むからここにいて」


「真君……。お願い、手を離して……」


「礼……」


 真君が私に口づけた。


 真君の優しいぬくもり……。

 お互いの頬を、涙が伝う……。


 愛してる……。


 愛してる………。


 だから……


 これ以上あなたを本宮のことで苦しめたくない……。


 私は真君の腕を振り払う。


「もう終わりにしましょう。お互い大人なんだから、しつこくしないで。さようなら」


 心にもない冷たい言葉を真君に浴びせ、そのまま部屋を飛び出し階段を駆け降りた。


 アパートの前に待たせていたタクシーに飛び乗る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る