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「どうぞ」
恐る恐るドアを開け、深々と一礼する。
謝罪は家電量販店で鍛えられ、得意中の得意だ。
「おはようございます。遅くなって申し訳ありません」
「一時間遅刻ね。言い訳があるならどうぞ」
相変わらず冷たい口調だな。
ここは氷の館か。
「えっと、いつも通る公道が事故で片側通行になってまして。渋滞もですが、実はスピード違反で捕まりまして……」
「スピード違反?遅刻した挙げ句スピード違反だなんて。大人としてあるまじき行為ね。まあいいわ。西本さんはこれで今月三回目ですよね。例えアルバイトでも仕事は仕事。三十歳過ぎて勤務時間が守れないなんて、社会人として失格ですね」
「はい。申し訳ありません」
凛とした眼差しが、俺をキッと睨む。
そんなに強く睨まなくても、反省してるよ。
「西本さん、悪いけど明日からもう来なくていいわ」
「……えっ!?」
想定内ではあるけれど、突然の解雇に俺は若干慌てている。
「申し訳ありません。以後気をつけます。せめてあと数ヶ月……、いや今月末まで働かせてもらえませんか」
「時間にルーズな人はこの職場にはいらないの。やる気のない人は来なくていいわ。私があなたを採用したのは、普通の大学生とは異なり、家電量販店での経験を評価したからよ。とんだ期待外れだったけどね」
社長の怒りはもっともで、返す言葉もないが、意気消沈した俺はガックリと肩を落とす。
「ご迷惑をおかけしました。お世話になりました」
社長は黙って解雇通知書を目の前に差し出し、サインを要求した。
まだ学生の身分ではあるが三十歳の大人として、女社長にここまで言われて正直腹が立った。
もちろん、自分に非があることは重々承知だ。
本来なら解雇する三十日前に通知は必要だと直訴も考えが、トラブルを起こすつもりもなく、ここは潔く退職するべきだと思った。
解雇通知書にサインをし、深々と頭を下げ一歩後退りする。
社長は黙々とパソコンを操作しながら、俺を見上げた。
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