「何笑ってるんだよ」


「真は社長さんのことが怖いのね。ド緊張してるくせに、バレバレの嘘をつくんだから。『道路が渋滞』って、真はバイクでしょう。車みたいに渋滞の影響はあまり受けないよね?あの社長さんなら、それくらいのことわかってるんじゃない?」


「あっ、そっか……」


 俺はバイク通勤だ。よほどのことがない限り、渋滞を避けスイスイと車の横を走れる。


 社長は電話で普通に応対していたけど、俺の嘘に気付いていたのかな。だとしたら、超気まずい。


「事故で片側通行とかにすればよかったかな」


「どっちもバレバレだよ。珈琲飲んだらバイトに行ってね。今日の珈琲は真の好きなモカのブラックだからね」


「サンキュー」


 バレバレって何だよ。

 あの社長に寝過ごしたなんて言えないだろう。


 熱い珈琲を飲み干し、黒いリュックを背負い玄関に向かう。玄関で奈央に軽くキスをし、そのまま部屋を出た。


「いってらっしゃい」


「いってきます。ちゃんと戸締まりしろよ」


 背中ごしに奈央の甘ったるい声と、ドアが閉まる金属音を聞きながら、階段を駆け降りた。


 アパートの横にある狭い駐輪場。バイクに跨がりエンジンをかける。ヘルメットを被りエンジンをふかし、一気に駐輪場を飛び出す。


 俺はMILKYで、もう二年もバイトをしている。自社ビルで婦人服と紳士服を取り扱っているが、どちらかというと十代後半から二十代の若者向けだ。


 MILKYのブランドは、ファッション雑誌に毎月掲載されるくらい、若者には人気のブランドだ。有名人も時折訪れ、セール中には開店待ちの行列もできるほど。


 そんな人気店で働きながらも、MILKYでのバイトは就職するまでの繋ぎに過ぎないと、安易な気持ちだった。


 でも卒業まであと半年あるし、今クビになったら面倒だな。MILKYは時給もいいし、平日は学業優先にしてくれるから働きやすい。

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