【1】冷たい女と可愛い女
礼side
2
一年前、都内のバー
「私には十四歳の娘がいる。お恥ずかしい話だが、娘が五歳の時に元妻が若い男と駆け落ちをしたんだ。娘を育てながら懸命に働いてきた。家政婦に任せきりだったこともあり、娘は私に反抗的でね。実は困っている。
娘には、娘を理解してくれる良き母親が必要だ。そして私にも、君が必要なんだ。君を愛している。私と結婚してくれないか」
三十歳の誕生日に、私は都内のバーでプロポーズをされた。彼が差し出したケースに入っていたのは、高価な三カラットのダイヤのリングだった。
彼は本宮corporationの代表取締役社長で、都内にマンションやホテルを多数所有している実業家だ。私よりも十五歳も年上で、一度離婚を経験し十四歳の娘が一人いる。
大企業の代表取締役社長が私のような者に自分の弱さを全てさらけ出し、今まで再婚もせず一人娘を懸命に育ててきたことに、私は驚きを隠せなかった。
彼の力になりたい。
彼を支えて、生涯をともに歩んでいきたい。
この瞬間、深い尊敬が愛情へと変わっていったのを覚えている。
私の両親も友人も、突然十四歳の娘の義母になることを反対したが、私の意志は揺らがなかった。
彼を信じていたから……
私に迷いはなかった。
きっと上手くいく。
きっといい家族になれる。
彼は誰よりも家族を大切にしてくれるに違いない。
◇
プロポーズから半年後、都内の一流ホテルで政財界の重鎮や大企業の社長を招き盛大に行われた挙式披露宴。
純白のウェディングドレスに身を包んだ私は、彼の右隣で頬笑む。彼の左隣にはブルーのフォーマルドレスに身を包んだ長女の姿。
煌びやかなシャンデリアの下で、世間知らずの私が思い描いた幸せは、ニメートルもの高さを誇るウェディングケーキのように、甘い幻想だったに過ぎない。
――現実を知るまでは……。
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