第7話

「かなり脱線したが話を続けよう。俺が別の世界から来たということは信じてもらえたかな?」


 アキが改めて話を本筋へ戻す。


「はい、それについては信用させて頂きますわ。ソフィー、レオ、エレンも問題ございませんわね?」

「問題ないですー!」

「問題ないよー。」

「しょうがないわね!特別に信じてあげるわ!」


 ミルナの確認に各自返事を返す。1人だけやたら上から目線がいるのは気にしない。


「そこからソフィーがした質問につながるんだけど・・・。」

「はい、私がしたのはなぜ戦闘を手伝ってくれなかったの?です。」

「端的に言えば戦闘できないから。先も言ったように俺の世界の俺がいた国では争いなんてなかったし、討伐するような魔獣なんて存在しなかった。戦う必要がなかったんだ。体を動かすのはどちらかというと健康の為や娯楽的な位置にあった。」

「え?ってことはアキさん、戦えないんですー?」

 ソフィーが可愛らしい所作で首を傾げる。

「うん。」

「全く?」

「全く。」

「えっ?えっ??」


 ソフィーはわけがわからないといった感じで?を頭の上にいっぱい浮かべたような表情になっている。


「ソフィーが混乱してるようだから僕が引き継ぐね。戦えないのはわかったよ。じゃあなんで水晶地竜の時にわざわざ出てきたの?」


 レオが混乱状態のソフィーの言葉を代弁するかのように尋ねる。


「あれには俺も計算があってね。もちろん死ぬ可能性はあったけど、レオ達の実力を見る限り討伐できる可能性のほうが高かった。そして皆に頼みたいことがあるんだ。」

「僕達に頼みたいこと?何?」

「その前にレオの質問にも答えるよ。頼みにも関係してくることだから。」

「いいよー。僕の質問はなぜ僕の身体能力を把握できてたの?だね。」

「それについては簡単なことだね。しばらくみんなの戦闘を見ていたから。前の世界で色々あってね・・・まあ、観察は得意なんだよ。」

「色々?」

「色々。今話すような事じゃないからまたいつかね。」


 アキはそう言ってレオの質問を濁す。


「じゃあ水晶地竜の攻撃とか弱点については?」


 レオが質問を変えて無邪気な表情で訊ねてくる。


「それは水晶地竜の方も見てたからだね。攻撃に移る際、結構癖があったからわかりやすかったよ。例えば尾の薙ぎ払いをするときは体の重心を右に傾けてた。弱点については常にあの場所を皆から庇う様にして動いてたんだよ。うまく隠しているつもりだったんだろうけどわかりやすかったね。」

「そうなんだ。全然気づかなかったよ。」


 レオが感嘆の声をあげる。


「大したことじゃない、後ろに下がってみてれば誰でもできるよ。こうやって種明かしされるとつまらんことだろ?」

「そんなことないよ!多分誰もわからなかったんじゃないかな。ねぇ、ミル姉はわかった?」


 レオがこのチームの戦闘時のリーダー的存在のミルナに聞く。


「正直驚いていますわ。私にはわかりませんでしたもの・・・。」


 驚くというより苦虫を噛み潰した表情だ。大事な事に気づかなかった自分が相当悔しいのだろう。


「それがみんなに接触した理由でもあるんだけどね。」


 アキが本題に入ろうとするが、混乱状態から解放されたソフィーが声をあげて話を遮る。


「アキさんって戦闘できないないのにエレンにあんな調子だったんですか!私てっきりエレンより強いからあの態度なんだと思ってましたー!」


 ソフィーが捲し立てる。どうやらエレンに対する態度に驚いているらしい。


「あれか・・・でも結果的に問題なかっただろ?」

「戦闘できないと知った今なら必死に止めてます!」


 ソフィーが呆れた表情でアキを見る。


「てっきり私も剣を止められる実力があるんだと思ってたわ。本当に人殺しになるところだったじゃない・・・。」


 さすがのエレンも呆れた表情だ。


「この世界って人殺すとなにか罰則あるのか?」


 アキがミルナに訪ねる。


「有るとも言えますし無いとも言えますわ。殺す人や場所にもよりますわね。」


 ミルナの回答を受け、なるほどとアキは思う。おそらく街中での殺害などは咎められるが、外に出てしまえば特に法はないということだろう。あとは国に使える兵士や領主などを手にかけてもきっと罰則がある。つまり簡単に言えば、バレなければ無罪。地球でもそうだった。アキが考察に耽っていると、呆れた表情のエレンが上から目線で注意してくる。


「ほんとあんたってバカなの?あきれて物も言えないわ。いい?次からは気をつけなさい?殺されても文句いえないのよ!」

「あぁそうだな、気を付けよう。でも・・・ミルナ。バカなのはエレンじゃなかったっけ?」


 ミルナのほうにわざとらしく確認をいれる。


「やっぱこいつ殺す!今すぐ殺すわ!!!」

「待って待って!エレン待ってってば!」


 アキに飛びかかろうとするエレンをソフィーが止めてくれる。


「さすがの僕もびっくりだよ・・・今その話したばっかりなのに・・・本当に死んじゃうよ?」


 レオが頭大丈夫?という表情でこちらを伺ってくる。


「大丈夫だよ。エレンは本当に殺したりしないのわかってるから。」


 エレンの事をわかっているような口調で語る。それが納得がいかなかったようで、エレンはさらに声を荒らげて叫ぶ。


「私の何を知ってるっていうのよ!本当に殺すんだからね!」

「俺は知ってるんだ・・・。」


 アキは意味深な表情を浮かべ言葉を続ける。


「な、なによ・・・?」

「純白を履いてる人に悪い人はいないって。」


 エレンに向かってグッっと親指を立てる。


「ぶっ殺ろおおおおおおす!!!!」

「レオ手伝って!そろそろ私ひとりじゃ止められないよ!」


 羞恥と怒りで顔を真っ赤にしているエレンを必死に押さえているソフィーが叫ぶ。


「アキさん、本当に殺されてもよろしいんです?これでも一応私たちはエレン側の人間なんですから。今はソフィーが善意で止めてますけど程々にしたほうが身のためですわよ?」


 ミルナがわざと挑発するような言葉をかけてくる。エレンをどう諫めるのか見定めようというのが丸わかりだ。アキとしてもエレンで遊んだのは自己責任なので、もともと自分でどうにかするつもりではあったが。


「エレン、冗談が過ぎた。ごめんな。でもエレンがそういうことしないっていうのはわかってた。それは本当。だってさっき『本当に人殺しになりそうだったわ。』そう言ったから。」

「そ、それがなによ!」

「つまり人を殺したくないって意味だ。それにその後『気をつけなさいよ』って注意してくれた。エレンじゃなかったら既に殺されてても文句言えないからだよね?だからエレンは俺のことを気にかけてくれる可愛くて優しい子だってわかったんだ。」

「か、か、か可愛い・・・!」


 アキの言葉を聞いたエレンは顔を真っ赤にしながらソフィーの腕の中でおとなしくなる。それを見たアキが「エレンはやっぱりチョロいな」と思ったのは言うまでもないだろう。そして隣にいるミルナが溜息を吐いている。


「はぁ・・・これはアキさんが凄いというよりうちのエレンがチョロすぎますわね。何の参考にもなりませんわ。」

「参考にしようとすんな。まぁチョロいんだけど。」

「チョロいですわね。」


 ミルナとアキが淡々と話す。


「チョロいっていうなああああ!」


 エレンの言葉を無視して2人は続ける。


「いじめたくなりますものね。私もよく遊びますもの。」

「でも嘘は言ってないからな、事実というか思ったこと言ってるだけだよ。」

「嘘だったらとっくに私が貴方を殺してますわよ。アキさんが本気で言ってるのはわかります。だからうちの子のチョロさに頭を悩ませているのですわ。」

「なるほど。」


 2人のやりとりを聞いていたエレンはソフィーの後ろに隠れて黙り込む。


「じ、事実・・・?か、可愛いってのは本当ってことなの?」


 ソフィーにしか聞こえない声でボソボソと呟いている。それを聞いたソフィーも当然ながらこの子チョロいなぁと頭を悩ませたらしい。

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