線香花火
祭
第1話
焼けたアスファルトや泣き止まない蝉の声も陰りを見せはじめる夏の終わり。
外にいるだけで汗が吹き出す熱気も落ち着いた静かな夜の11時。男は庭で作業をしていた。
瓶に詰められているのは硝石と硫黄と炭を
配合したもの、いわゆる火薬だ。
その横には色鮮やかな和紙と大きなダンボール箱が置かれている。真夜中の家の庭で男は淡々と線香花火を作っているのだ。
ゆっくりと丁寧に和紙の中に火薬を入れ、
綺麗に折りたたむ。中の火薬の量は0.7g。
これよりも多いと爆発する危険があり、少ないと最後まで燃えきらない。
作り始めた時はたどたどしさが残っていたが5個ほど作り終えると、体の記憶が戻ったように手慣れた手つきで線香花火を量産していた。
ピクリとも笑いもせず、ただ線香花火をまっすぐに見つめながらダンボール箱の中に入れていく。
線香花火の数は80を超えており、男1人で楽しむにはいささか過分な量なのだが男は手を止めることはなかった。
100を超えた辺りで男は手を止めて火薬と和紙を片付けた。そしてライターを手にし、ダンボール箱の上に置いた。
そのまま男は片手でダンボール箱を抱え、もう片方には水の入ったバケツを手にして家の外へと出た。
男の行き先は男と約束の人しか知らない、変わらない場所。
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