けっこんして?
鈴音にう
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聞き覚えのあるの声が聞こえた気がした。
風船を片手に歩き私はその声を探す。はぐれてしまったあの人の声なんじゃないかって。走っても走っても見つからなくて私は自分がしてしまった過ちで泣きそうだった。
あの人に喜んで貰えるんじゃないかって、握られていた手を離して風船を探しに行ってしまったのが間違いだったかもしれない。それでもこの風船をあの人にあげて笑って欲しかった。楽しい遊園地なのにあまり少し寂しそうに笑うから。元気になるにはどうすればいいか、私は考えた末に自分がされたら嬉しいことをあの人にしようと思いついた。
可愛いうさぎの風船と飴。私はこの二つとても大好き。ふわふわ浮かぶ風船と歩くのはとても楽しくて、美味しい飴を口に頬張ると幸せな気持ちになる。
子どもの私には大人の苦しみを理解できない。あの人が何に悩んでいるかはわからないし、きっと難しくて理解はできないんだろうなって。それに私に話してと言ってもなかなか話してくれない。私がまだ子どもだから、小さい子どもだから相手にしてもらえないんだ。
大人だったら話してくれたのかな。
もっと早く産まれたら違ったのかな。
そんなこと考えても仕方ないのに。仕方ないとわかっていても、あの人の力になりたい気持ちは変わらない。だから私なりできる精一杯の励ましをしたくて、今日の遊園地で元気にしようと思ったのに…結局、空回りして迷惑かけちゃった。
きっと迷子になった私を探しているんだろうな。
「っ……」
いつも優しくしてくれて遊んでくれるのがとても嬉しくて。困った時や悲しい時も一緒にいてくれるあなたが大好きで…。
私もあなたに何かできないのかなって。大好きなあなたの力になりたいなって思ったのに。
私の手は小さ過ぎて、あまりにも小さ過ぎて何もできない。あの人の手はとても大きくてなんでもできるのに…私は無力で。
「ごめんなさい」
賑やかな遊園地では私の言葉はすぐに消えてしまって。どんなに声をあげたところで私の声はあの人に届かない。わたしはなにもできない。
人はいっぱいいるのに私はひとりぼっち。とても寂しくて悲しさで押しつぶされてしまいそうでうずくまった。心の中であの人にずっと謝っても遅い。
「○○ちゃん!!」
私の名前を呼ぶ声。
それはとても聞き覚えがあってもしかしてと思って辺りをキョロキョロ見渡すとあの人が…駆け出して胸の中に飛び込む。ずっと、ずっと探していた温もり。離れていた時間は大したことないと思うけど、ずっと会っていなかったような気持ちで…。
勝手に離れてごめんなさいと謝る私に優しく頭を撫でて、無事でよかったと強く抱き締めてくれた。息を切らして少し汗をかいて本当に申し訳ないことをしたと、何度も何度も謝っても悪くないよ大丈夫と言ってくれるあなたの優しさがとても心苦しくて。
「あの…ね、これ…あげたかったの」
手に持っていた風船とポケットに入っていた飴を渡すように前に出す。驚いたような顔していたけどありがとうと受け取ってくれた。
今日一番の笑顔を見せてくれて私はほっとする。でもこの笑顔もすぐに消えちゃうんだろうな…また悩んで苦しくなっちゃうと笑えなくなっちゃう。その時に風船と飴があればいいけど、いつでも手に入るものじゃないし。
「〜すると幸せになれてずっと笑顔になれるんだよ」
友達から教えてもらったことを思い出した。私にはこの人を幸せにできるのかな?でもこれって断られたら幸せにできないって聞いたし…。何より私にできるのかな。
でも笑って欲しいから頑張って言おう。
「あのね…聞いて欲しいの」
「なに?」
「私と…けっこんして?」
「えっ?」
「けっこんして…幸せになって辛いことははんぶんこにすればきっと辛くないと思うの…」
いきなりはダメだよね…結婚はちゃんとむーどと花束がないとダメだって聞いたし。それに私はまだ子どもだから、できることないから幸せにしてくれないって思われちゃうかな。大人だったら違ったのかな。
「○○ちゃんは私と結婚したいの?」
「うん…けっこんしていっぱい幸せにして笑って欲しいの」
何もできない私はあなたを幸せにしたい。だから結婚したいの。ダメかなって泣きそうになっている私にありがとうと言って、優しく撫でてから指を出してきてきょとんとしてしまう。
「いいよ、結婚しよ」
「いいの?」
「うん。それで指切りして約束しない?」
「うん!」
指切りしてこれで結婚したんだってとても嬉しくて。私はまだまだ色々できないけど幸せにするから。ずっと笑ってほしいから幸せにするね。
私のこと好き?と聞いたら、黙って頷いたその瞳があんまり優しくて泣いてしまった。
けっこんして? 鈴音にう @suzune23
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