第10話

ロヴィーナ嬢からポインターを静かに奪い返すと、私は、再び黒板に向かいます。


「皆様、この花印をご覧ください。これは、注釈ともうします。さらなる注意書きが必要でしたが、生憎書ききれませんでしたので、口頭でご説明させていただきます。冊子をお持ちの方は、18ページ目の、5月24日、「階段落下事件」保健医、学部長、担任の証言をご覧ください。」


冊子をお持ちの陛下と、宰相が忙しくページをめくっています。冊子を持たない方々は、持っている人の周りに集まって、覗き込んでいます。(掴んだ!)


「5月24日、ロヴィーナ嬢から、担任、学部長へ、ロヴィーナ嬢が、階段から突き落とされた、という告発がありました。その際、事件が、5月22日、昼休みに入る12時ごろに起こったこと、その直前まで、リリアと口論していたこと、後ろからいきなり突き落とされたため、限りなくリリアが怪しいけれど、誰か確認できなかったこと、よって、正式な調査などで、他の生徒たちを煩わしたくないこと、怪我も軽いので、穏便に済ませたい、という話があったということです。」


「そうよ!殺されそうになったのに、わざわざ、助けてあげたのよ。その寛容な私に、こんな嘘をつくなんて!信じられない下衆ね。」


ロヴィーナ嬢の勢いはとどまるところを知りません。


「ただし、保健医に確認したところ、ロヴィーナ嬢の治療は、22日の午前10時半に行われております。これは、保健室にある記録でも確認できました。(19ページに写しがございます)22日のリリアの出席は、午後からとなっております。1時の授業に出たことは、出席表から確認できておりますので、リリアが1時以降学園にいたことは間違いございません。」


「ほら、ごらんなさい、リリアは12時には、学校にいたのよ!早くきてやったに違いないわ。保健医が時間を間違ったのよ!」


「いえ、時間に間違いはないかと。保健室の看護師も同様のことを証言いたしましたので。ただ、時間の関係で署名が取れなかったので、そちらには記載しておりません。しかし、同意を得ていますので、これは後日再提出が可能です。」


私はわざとらしく黒板の22日のリリアの欄に、12時と1時の時間を記しました。そしてその間に、3人の先生の名前を書き加えます。


「この3人の先生方は、それぞれ、その日教務室で、勉強の遅れについてリリアと話し合いを持ったと証言しています。昼の休憩時間に行ったということですので、正確な時間は判明いたしませんが、遅れた分の確認や宿題の提出を含め、各先生方と15分以上の話し合いを持ったとおっしゃっています。(21ページ参照)」


「突き落とすなんて、1分もあればできるじゃない!話し合いの間にできるわよ!」


どうやらロヴィーナ嬢は諦めが悪いらしいですね。


「ほう、12時から1時までの間のわずか15分、もしくはそれよりも短い時間、わざわざ教務室を離れて階段まで行ったら、たまたまあなたがいらっしゃったとおっしゃる。そのタイミングで突き落としたと。」


「そうよ!」


「それが天文学的確率であることは置いておいて、リリアとの口論は何時にどのように起きたのでしょう?」


「ぐぬぬ。時計なんか見てないから知らない!」


そろそろ諦めましょうね、ロヴィーナちゃん。


「ほう。時間に興味がないとは、意外ですね。私は、あなたが事件が起きた翌日の23日に、リリアのクラスメートに、リリアがいつ学校にきたか聞き回っていた、との証言を得ています。そちらの証言は、25ページをご参照ください。」


私はここで、ハッタとロヴィーナ嬢を見つめます。


「貴方が口論していたという時間には、リリアは学校におらず、リリアが学校に来る前に既に階段から落ちて治療を受けていた。その上怪我をした時間をリリアが学校にいた時間と合わせるために、リリアの行動を他の生徒さん達に聞いて回っていた、ということがご理解いただけましたでしょうか。」


ついに言葉をなくしたロヴィーナ嬢から目を離し、陛下に向かって最終弁論を繰り広げます。


「よって、ロヴィーナ嬢の階段落下には、リリアの関与はなかったとの証明が利害関係のない第3者の証言によって、可能でございます。また、その他の告発につきましても、リリアが関係なかったことはリリアの不在証明により明白となっております。


以上、私からのプレゼンを終了させていただきます。ご静聴ありがとうございました。」


・・・なぜここで拍手が起きないのか、全くもって不思議だわ。

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