第8話

三日後、予想通り、王宮に呼ばれました。リリアちゃんと出頭(リリアちゃんはまさにそう言う気分らしく、顔色が優れません)です。さすがに王宮ですね。白亜の壁が続くなか、青い屋根瓦の塔が空に溶け込むかのごとく、四隅にそそり立っています。


侍従と近衛兵たちに導かれて、謁見室まで辿り着きました。門から、馬車と徒歩で、ここまでの道のり優に15分はかかりました。


私は相変わらず黒の喪服を着ています。(同情票を狙いました)リリアちゃんも、父親が亡くなってからまだ半年ということで、黒とは言いませんが、華美にならないよう、紺のドレスを選んでいます。


謁見室には、私たちの弁護団のつもりなのか、オークデール伯爵夫妻も来ています。正面には、陛下と王妃、王太子とあのガキンチョ、もとい、ローランド殿下が陣取っています。数名の騎士たちと、宰相(だと思われます)を中心とした、文官が何名かいますが、あの夜会のような聴衆には数ではまったく及びません。こじんまりした内輪の貴族達の集まり、というところでしょうか。その中に、ロヴィーナ子爵令嬢とその父親を見て、リリアちゃんはちょっと顔色を変えました。私?予想通りです。


礼に則ったご挨拶ののち、おもむろに陛下が発言なさいました。


「皆の者、ご苦労であった。本日は、我が息子ローランドから、正式にリリア・スタイヴァサント侯爵令嬢と婚約破棄する旨の申請が有ったため、それを審議するべく集まってもらった。


ローランドより、スタイヴァサント侯爵令嬢は、王家の婚約者として相応しくない、卑劣な行為を重ねており、貴族として、また、王家につながるものとしての品位を著しく落としたとの非難告発がなされた。故にスタイヴァサント令嬢との婚約を解消すると申しておる。リリア嬢は、どのようにお考えかな?」


リリアちゃんは、私の方に、ちらっと視線を向けたあと、計画通りの返事をします。


「陛下、私の発言をお許しいただき、まことにありがとうございます。ただ、今回のことは、私だけのことに収まらず、スタイヴァサント家の貴族としての品位と矜持に関わることでございます。スタイヴァサントより、一家を代表する形でご返答を差し上げてもよろしいでしょうか。本来でしたら、一家の意見は父が申しのべるところではございますが、父が亡くなりました今、幼き弟が成人するまで、母がスタイヴァサントを代表しております。母の発言をお許しくださいませ。」


オークデール伯爵が口を開いたのを抑えるように、陛下から


「許す。」


の言質をいただきました。


私も、伏せていた顔を上げて、プレゼンテーションタイムです。


「誠に寛容なお言葉、ありがたき幸せにございます。まずは、婚約の取り消し、スタイヴァサントはお受けするのに異存はございません。既に壊れてしまったものです。取り繕うこともできません。殿下との婚約はと承りました。


ただ、卑劣な行為、品位を落とした行為に関しましては、死をもってして償うべき、誠に重大な告発でございます。これにつきましては、是非ともスタイヴァサントとして、誠意あるご返答をさせていただきたいと願っております。陛下、こちらに、弁護のための証拠の品を持ち込んでもよろしいでしょうか?」


証拠と言われて興味を持ったのか、陛下は、


「許す。」


と再びのたまいました。


控え室より、ガラガラと音を立てて、使用人さんが、可動式の黒板を運び込みます。使用人さんと一緒に入ってきたのは、マーティアン先生です。


黒板に広がる表を見て、宰相らしき方が、


「これは?」


と思わず声をもらしました。


「スプレッドシートでございます」


パワポが欲しいところですが、そうもいきませんよね。

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