子持ちかよ!
大島周防
いきなり未亡人
第1話
(!子持ちかよ!)
頭の中に浮かんだ第一声はこれでした。
「お母様!」
と胸に縋る、少女(中坊かしら?)を反射的に抱きしめます。いや、幾ら何でも涙の止まらない子供を押しのけるほどの人でなしにはなれなかった、それだけの理由で少女の背に手を回しました。しかし事態を把握できず、こっそりあたりを見回します。どうやら何かのパーティーの最中のようです。
婚活パーティー?そういや、積極的に参加しようと自分に誓ったばかりですが・・・それにしても何故皆、仮装しているのか。仮面がないだけで、まるでヴェニスの舞踏会のようです。女性は皆こっぱずかしくなるぐらいきらびやかなドレスを着ているし、男性も中世ヨーロッパ風の衣装です。髪は鬘なのかしら?男女共色とりどりです。
腕の中の少女がまた泣き声をあげました。
「お母様!」
つい声の方を向くと、震える小鳥のような子供が、私を見上げています。なんて声をかけて良いやら、全く見当がつきません。私のことよねぇ。なぜこの子は私を母と呼ぶの?
少女の背中に向かって、正面に立つ少年が荒げた声を投げつけました。
「よって、リリア・スタイヴァサント、お前との婚約は破棄する!」
少女は私の腕の中で気を失いました。
私は少女の重さに絶えかねて、彼女を抱えながら膝を着きます。事態を把握した数人の男性が駆け寄り、少女と私を助け起してくれます。私の腕から少女を救い取った男性が、
「どうぞ、こちらへ」
と呼びかけます。何が起きているのか、全く理解できませんが、私のことを母と呼ぶ少女(リリアなのでしょうか?)を放っておくこともできません。おまけに、ここに残れば、一人で注目を浴びなければならないようです。事態が明らかになるまで、兎に角人目を避けたい。
すでに視線が痛いくらい突き刺さってきます。リリアを抱える男性を、顔を伏せたまま、小走りに後を追いました。
連れてこられた場所は、先ほどの大広間からさほど離れていない、一見書斎のような場所です。大きなデスクの横に長椅子らしきものがあり、少女はそこにゆっくりと横たえられました。(うん、リリアちゃんと呼ぼう)
「大丈夫なのでしょうか?」
と尋ねると、男性は、
「おそらく衝撃で気を失われたのではないかと、気付け薬を持ってまいりますので、少々お待ちください」
と返事をし、部屋を早足でていきました。リリアちゃんの様子をそっと探ると、胸がかすかに動いています。青白い顔ですが、すぐにどうこうということはなさそうです。私にできることもなさそうなので、ちょっと後ろめたかったのですが、まず、この訳のわからない状況を把握しようと立ち上がりました。
立ち上がった拍子に、デスク近くの姿見に映った自分の姿が目に飛び込んで来ました。引っ詰めて後ろでお団子にしたサンディブロンドの髪。ほっそりして血の気のない顔。見つめ返す瞳はグレーに近いブルーです。ほとんど喪服といってもよいような黒い飾り気のないドレスを着ています。
鏡に向かい、手をあげて軽く振ってみました。鏡の中の女性も、同様に振り返して来ました。
衝撃が走ります。
「転生だ!」
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