白と海

すい

第1話 私

手を握る。必死に暴れて逃げようとするそれを私は押さえつけて。

次第に呼吸は弱くなり、動きは鈍く、脈はゆるくなっていく。


人を殺した。もう慣れたことだった。もちろんいけない事だろうし、見つかれば私はきっと死ぬのだろう。でも、この人は自ら消えたいと願っていたのだ。

人の願いを叶えることは、きっといいことだろう、なんて思いながら彼が残した血をぬぐう。

自殺志願者だった。私はとくに訳という訳があるわけじゃないが、自殺したい人から依頼を受けて、その人を殺している。実を言えば、私も自殺しようとしているし。

けれど、まだよくわからないのだ、死ぬということが。こんなに近くにあるのに。これでもう何人目かもわからない。みんなはじめはあんなに死にたいと願っていたくせに、いざ私が首に手を添えると嫌だとか、助けてくれとか言って暴れまわる。

私が死ぬのは6日後だ。あくまで予定だが、あまり長々ここにいてもあまり今と変わらなさそうだし、死ぬことに実感が湧いて、さぁ死のうと思えて、私も一人で自殺したいと思う。


私は幼い頃両親に捨てられたらしい。

周りを海に囲まれた、小さな島の小さな家に住んでいる。今は亡き、私を育ててくれたこの島の少し年をとった夫婦がここにいたから、なんとなく、離れるのもめんどくさいと思って。

私は小さい頃から感情が薄かったらしい。

周りからは強い子だねぇ、偉いねぇ、と褒められたけど、何が偉いのかよくわからなかった。何も感じなかったのだ。親が自分を捨てたということを打ち明けられたときも、

そうなんだ、くらいだった。だからそんな私は強い感情を知りたい。死ぬまでには。

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