僕の父は宇宙人

パニ

第1話 お風呂場から父の叫び声が。。。

これは、今でも続いている父の奇っ怪な行動の一つである。


僕が幼少時代から今もなお、父のその行動はずっと続いている。


僕が小さい頃はこの行動が当たり前だと思っていて、あまり気にはしていなかった。


しかし、歳を重ねるごとに何か分からない違和感を覚えるようになった。


父は大の風呂好きで、いつも熱い湯船につかることが大好きだ。


普通の親父は鼻歌なんかを歌ったりするのだろうが、僕の父は熱い湯船につかると、


「うわー、うあわー、うあああわー!」


と周り近所中に聞こえるくらいの大声で叫び始める。


そこからどんどんどん興奮の度合いが上がっていき、


「がんばれ!がんばれ!がんばれ!ジャイアンツ!」


なぜか?いつもジャイアンツを応援する。


野球好きは野球好きだが、ジャイアンツが好きっていう事は一言も聞いた事はないし、テレビを見ていても違うチームを応援していたのに…。


父はなぜ、風呂に入ってる時だけジャイアンツを応援するのか???


全く意味がわからない。。。


家族中の謎である。


さらに、、、


「万歳!!万歳!!万歳~!!」


と近所中に丸聞こえなるほどの大声で、叫ぶ時もあった。


3つ目は、近所中に聞こえるほどの大声で、


「この!くそ野郎!」


と叫ぶ始末。。。


一体誰の事なのか??


近所の人たちはどう思ってたのだろうか。。。僕には全く理解できなかった。


だいたいバリエーションはこの3つ。


いったいどんな使い分けをしているのかも謎である。


ところで母は父のこの奇っ怪な雄叫びをどう思っていたのだろう?


ますます謎は深まるばかりである。


僕の友達が僕の家を通りすがった時に風呂場から聞こえてきた父の雄叫びを聞いて、


「お前の親父、風呂中に何か叫んでるよねー」


て言われて…はっっ!これはやっぱりみんなに丸聞こえだったんだと分かり、持っていたジュースの缶の中に入りたい気分だった。


風呂場の父は何かストレスが溜まっていたのだろうか?


興奮して叫んでしまう星人なのだろうか?


僕は子供ながら意味がわからず、どう解釈していいかもわからなかった。


そんな毎日が続き、僕も家から独り立ちをし、20歳位になったころ、


ある時、友達の車が途中で止まってしまったらしいので、ちょっと助けに来てくれと言われ、みんなで車を後ろから押すことになった。


1人が運転席に乗りハンドル操作をし、友達4人が車の後からせっせと押すことになった。


代わりばんこで1人が運転手、後の人は車をせっせと押して…


そして、僕がハンドルを握る番が来たときに、友達が車を一生懸命押している姿をバックミラーで見た僕は思わず気がつけば大声で、


「がんばれ!がんばれ!ファイト!ファイト~!」


と信じられないくらい大声で叫んでいた。


みんな黙々と汗を流しながら車を押しているのに、こんな風に叫んだのは僕1人だけで。


「お前親父そっくりじゃん!」


それを言われたときに僕は、


はっ!と気付いてしまった。


僕は父と同じ奇っ怪な大声を出してしまっていた事に。。。


僕は愕然とした。


この時、僕が確かにあの奇っ怪な行動をとる宇宙の父と同じ血を引く息子であると言うことがはっきりとわかった。


そしてあまりのショックに声が出なかった。


あの父を少し軽蔑したような目で見ていた僕は僕自身も同じ惑星の人種であったんだと。


僕たち家族は父のあまりの意味のわからない数々の行動から、宇宙のお父さんと心の中で呼んでいたのに。。。


僕も実は周りから見れば意味のわからない宇宙の僕なのかもしれない。。。


僕は同じにはなりたくないが、どうしても無意識に出てしまう。。。


カエルの子はカエル。。。


やめて~、同じになりたくない~!


最近になって母から聞いた話だが、どうやら風呂場の「クソ野郎」は、30年前に喧嘩したタクシーのおじさんの文句をずっと言っているらしい。


「あのタクシーの運転手のクソ野郎!」


どんだけ恨むのか。


30年前の話。


そこまで普通恨めない。


ある意味立派である。


この父の奇っ怪な行動はまだまだ思い出せば、いくらでも出てくる。


マジで似たくない!!!


心と身体は裏腹なわけで…。

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