第48話王宮とルーク脱出part9

「さて、リンで気力(魔力)も十分回復した事だしそろそろ次のステージに移ろうか」


 ルークはリンを抱き締める手を緩める事なくそんな事を言ってくる。


「ルー様、格好つけるんなら私を下ろしてからにしてくれませんか?」


「え?…嫌だよ?」


 ルークは君は何を言っているんだ?…意味解んないと言わんばかりの表情を見せる。


「恥ずかしくはないんですか!?」


「全然?…恥じらいなんて、リンを抱き締めるのに必要なら喜んで捨てるよ」


 ルークは今日一番の良い笑顔を向けてきた。

 赤面しているのは寧ろリンの方で、当のルークは涼しげな顔を崩さない処か、リンに向ける目は愛しい恋人に向ける物で、一人は生暖かく見守って、もう一人はリンに諦めろ……とゼスチャーしてくる。

 何だろう……両方ともムカつく。


「それに次のステージって何ですか!?」


 リンは話が進まないので、次に聞きたいことを聞くことにした。


「ん~?」


 後ろからリンの首筋に顔を寄せて匂いを嗅いでいるルークは、リンの呼び掛けに考える素振りな声音を出す。


「ルー様、ひっ叩きますよ」


 名残惜しそうにリンの首から顔を離すとルークはゆっくりと説明し出した。


「…元々あの女の所業には思うところがあったからね。…良い機械だから一掃しようと思ってね」


「いや、出来るなら初めからやりましょうよ…」


 ルークの答えにバンは呆れながら突っ込んだ。


「今まではどうでも良かったからね。……どうせ遠くない未来に国王自ら引導を渡していただろう」


「なら、何で今なんです?」


 素朴な疑問だった。


「あの女は、母上だけでは飽き足らず俺のリンにも手を出そうとした」


 恐ろしく底冷えしそうな声音は一瞬のもので……直ぐにリンが良く知っている優しい声に戻った。


「……俺の逆鱗に触れなければ大人しくしていようと思ったさ。…元々権力に興味も無いからね。……それに……あの女は心底嫌いだがシリルは可愛い。……あの女が大人しくしているのなら、シリルが王位を継いだとしても、俺はそれで良かったんだ」


『まあ、俺は国王に向いていないのも有るんだけどね』と言葉を続けた。

 その言葉で、ルーク様はシリル様の為に身を引いていたのだと理解した。

 自らを無能と周りに思い込ませ、弟が王位を継ぐのに弊害は排除して、自分すらも排除して、死んだように生きていた。


 うっかり抱き締めてしまいそうになったのを、リンはグッと堪えた。

 きっと誰よりも優しいこの王子様は……。でも国民の為を思うなら、もっと早く動きべきだったのだ。

 彼が優先するのは何時だって自分の愛しい者が最優先。だが、それらを犠牲にしてでも国を守るのが国王だ。そういった意味では、能力は段違いに高いが確かにルーク様は国王には向いていないのだろう。

 その気になれば誰よりも優秀で、王位継承権を持つルークは、何よりも大きい障害だ。


「……国王も気付いていたんですか?」


 そう聞いたのはバン。

 ルークの側近は黙って主の話を聞きこの場を見守っている。

 本来ならトップシークレットだろう。

 王太子の母でもある。女性では国で一番権力があるのが、今回の相手だ。それもあり、表向きは国王は中立的な立場を保っていた。

 バンの問い掛けにもルークは隠す事なく答えた。それが危険を省みずにこの場に来てくれた者に対する礼儀だと理解しているから。

 そう言えば、ルーク様の父親はルーク様を守るために、ルーク様を公爵に封じたのだ。


「あの人は無能じゃない。機械を狙っていた、が正しい。あの女は国母(王太子シリルの母)という立場と実家の権力を持ち合わせているからね。……不用意には手を出せない……まあ、やりようはあるけどね」


 後半は何やら怖いことを言っているが敢えてその点は無視する事にした。


「で、実際には何をするんです?」


 突っ込んだのは又もバンだ。


「今迎えに行かせているから、そろそろサトリ達もこちらに来る頃だ。……」


 二人の到着を待って話をするとルーク様は言った。バンはそれを聞いて素直に引き下がった。


「俺の事より、リンは?大丈夫だったかい?」

「負傷したか、どうかという事でしたら無傷です」

「勿論それも一番大事だが、それじゃない」


 まあ見たら解るか…とリンは一人納得した。

 それにルーク様は先程からリンを触りまくっている。何かあれば一番先に気付くというものだろう。

 でははて?……他には何が"大丈夫?だったかい"なのだろうか?

 リンが頭の上でクエスチョンマークを浮かべているとルークがリンの頭の優しく撫でた。


「そうだね。リンにはちゃんと言葉にしないとね。……愛しい君を黙って置いて行く事になってしまった。寂しくは無かったかい?」


「!!」


 寂しくなかったか?何て寂しかったに決まってる。……でも恥ずかしくてそんな事は言えない。言えないけど、寂しくなかった何て、嘘は言いたくなかった。

 ルークは真っ赤になってしまったリンの顔で全てを察して黙って抱き締めてくれた。


「ホントならずっとこうして抱き締めてあげたいけれど……もう時間切れになってしまった様だ」


 ルークの言葉と共にサトリ君とカリン姉が案内人と共にやって来た。


案内人こんな人を寄越せるんだったら自力で帰ってきて欲しいものね」


 そう言ったのはカリンだ。

 サトリ君はというとルークの顔を見て喜びが隠せない。まるで犬のように嬉しそうに尻尾をふっているな、と皆が思った。


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