第41話王宮とルーク救出part2

「親方……ルー様殴りに行くので王宮の見取り図下さい……」


 あまりにも簡単に言っているが、勿論簡単な事ではなし、暗殺者だからといって全員が知っている訳でもない。

 風の谷の民だから出来る技だった。


 何故……親方達が風の谷という通常なら住みづらい場所で暮らすようになったのかは祖国を追われたから………としか聞いていない。

 住み着いてからはそこまで長い年月は過ぎていないと言っていたが、全てリンが生まれる前の話なので真実は解らないし、特にリンにとって、その部分は重要じゃないから調べようとも思わない。


「え!?………王宮の見取り図が有るのですか!?」


 その言葉に驚いたのはシリウスだ。


「……リン、お前はもう少し考えてから口を開く様にしような」


 親方はリンの頭をポンポンしながら、子供に言って聞かせる様に話をしている様子にシリウスは更に驚いていた。

 きっとリンの為でなかったら、こちら公爵家の要請にも答えなかっただろう。

 其ほどまでに悪名高い風の谷の頭は、リンを特別に大事にしている。

 風の谷の出身者と知ってリンの身体能力の高さに納得がいったが、それでも住民の一人なだけだと思っていたのだが。


「大丈夫だよ、親方。ここ公爵家の人達は信用できる。…だって私を知っても風の谷をルー様は利用しようとはしなかったもの」


(きっとルー様も私が風の谷と係わりが有ることを知っている)


 調べ上げたのだろう。

 ルー様に立場からすれば仕方がないと理解もする。

 おばさんの紹介で此所に来たけれど、何故おばさんは私を公爵家に来させたのだろうか?


「ああ、解っている。だからリンを預けても良いと判断したんだ」


「どう言う事?」


「俺達がお前を信用ならない奴に預けたり等する筈が無いだろう?かといって狭い世界に閉じ込めていたのではお前の為にはならないからな」


「親方………」


 きっとずっと守ってくれていた。

 お母さんが死んで、父さんがあまり働いてくれなくても幼かった自分の稼ぎだけで、それでも生きてこれたのは、親方達がいてくれたからだ。


「信用して頂いて何よりです。…ですが、我が主は、リンさんの安全を最優先と指示して行かれました。…我々は主の指示を優先致します」


 あくまでもリンを行かせるつもりは無いらしい。でも、リンとて簡単には引き下がれない。何せ初恋だ。

 恋人を守れずして、自分だけを安全な場所に置くなんて納得が出来ない。

 守られたい訳じゃない。

 守りたいのだ。


「私はルー様と一緒にいると約束しました」


 真っ直ぐと射抜くような強い瞳でシリウスを捕らえる。


「王宮は危険なのです。…大切な貴女を連れては行けなかったルーク様のお気持ちも察して上げて下さい」


 それでも、リンがルークの最後のストッパーだと解っているシリウスは最悪なシナリオだけは避けなければならなかった。


「理解はしても納得が出来ません」


 シリウス様との会話中、親方は口を出さず黙って見守ってくれていた。


「解った…お前はお前の意思で公爵を迎えに行きたいんだな?……俺はやることがあるから一緒には行ってやれんが、その代わりカリンに案内させる」


「!!!、カリン姉がここに来てるの!?」


 カリンとは親方の娘でリンより年上な25歳凄腕の美女だ。

 リンを実の妹のように可愛がってくれている。母親が亡くなってからは、母親代わりをおばちゃんと一緒にしてくれていた。リンにとっては師であり母であり姉であり、また友でもあった。

 リンはカリンを実の姉のように慕っていたのだ。


「ああ………あと少しで此方に到着する筈だ。カリンが一番適任だろうし、カリン自体この役目を誰にも譲らんかったからな」


「お待ち下さい……出来ればリンさんを止めて頂きたかったのですが……」


 シリウス様が珍しく慌てている。


「こいつは誰の言う事も聞かんよ。…俺達もこいつが望むなら、出来る限り叶えてやりたい」


 これは折れるしかないとシリウスは判断した。リンの説得は無理だろうし、無理矢理抑え込んで暴走された方が危険だ。


「~っ、解りました。…私に出来ることがあったら仰って下さい。出来る限り尽力致します。ですが、重ねて申し上げますがリンさんに毛ほどの傷でも付けば、ルーク様が激怒しますから」


 シリウスはアンさんが運んできた紅茶を入れると、親方と私にソファに座るように促した。大切な客人を最大限持て成なそうとしているシリウス様に、親方は答える様にそれに従った。


「俺が言うのも何だが、リンがいれば風の谷は協力する。…その方が都合が良いんじゃないか?」


 親方は体に似合わず優雅に紅茶を飲みながらシリウスに問い掛けた。


「風の谷の皆様が優秀なのは存じ上げて降りますが、ルーク様を侮らないで頂きたい。我が主は無能では有りません。自力で戻ってくる芸当ならやってのけるでしょう」


「成る程……仕事もしない無能な公爵という噂は宛にならんな。昼行灯は仮の姿という訳か」


「それもリンさんのお陰で廃業になりそうですよ」


 シリウスは苦笑しながら、それでも何処かホッとして誇らしげな顔をした。


「成る程……だから目をつけられたという訳か」


 シリウスは親方の言葉に首を降って力強く否定した。


「……何れ決着は着けなければなりませんでしたから、ルーク様にとってそれが早まっただけの事です。…今までは生きる希望なんて彼には有りませんでしたから………良い傾向だと思っています」


 シリウス様は此方を見ている様で、此所にはない何か遠くを見ている様な目をした。


「……リンが公爵を連れ帰りたいと願うなら、俺達は従う。…その為にも王都にある公爵家所有のタウンハウス以外で、潜伏できる場所を整えてくれ。…連絡役は此方で用意する」



「承知しました。…至急準備してサトリに案内させましょう」


「シリウス様、サトリ君が来て大丈夫何ですか?」


「リンさんが考えているよりも公爵家の守りは鉄壁ですから大丈夫ですよ。…だからこそ、あの女もここにいる間は手が出せずに、ルーク様を王宮迄引き摺り出したのですから」


「なら良かったです」

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