第39話平穏な日常の終わりと新たな始まりpart2
何時もなら用件のみ端的に伝えるシリウスがいつになく回りくどい事をしているとは、ルークも思っていた。
だが、長年の付き合いからシリウスのやることに無駄や意味がない事なんてない、そう思える位にシリウスを信用していたのだ。
ゆっくりと優雅に紅茶を入れ、隣同士に座って、何ならパーソナルスペースは誰よりも近い二人の前のテーブルに置く。
シリウスはミルクティをルークが飲み終わる迄は、きっと用件を話す事はしないだろうと解っていたから、美味しいミルクティを味わう事にしたのだ。
「あ……美味しい!!」
リンが嬉しそうに感想を漏らす。
立場上、シリウスに紅茶を入れて貰う機会なんてなかっただろうから勿論初めて飲んだのだろう、感動の声をあげても当然なほど、シリウスの紅茶を入れる腕は玄人だった。
「リン、良かったね」
ルークはリンが嬉しそうにミルクティを飲む姿を眺めた後、視線をシリウスに移した。
その目線を受け止めたシリウスがゆっくりと口を開く。
胸元から手紙を一通差し出したシリウス。
受け取った手紙の差出人は……シリルの母親、第2王妃だった。
事実上王妃の立場にある、時の権力者からの王宮への呼び出し。
あの女からの呼び出しが楽しい物で有る筈もなかったが、ある意味で予想通りで、ある意味予想を上回っている。
義理の弟、王太子の暗殺未遂の容疑が仕掛けてくるとは……消して穏やかではなかった。
今まではこんなに直接的でボロが出そうな攻撃は仕掛けては来なかった。
母を殺した時も……決して尻尾を掴ませない狡猾さがあったのだ。
だから、俺が訴えただけではどうする事もできず、寧ろ不敬だと俺に対しても攻撃してきた程だ。
それがこんな雑な作戦はあの女らしくなかった。……あの時放った刺客達からは随時報告が届いている。
その報告から、珍しく視察に同行していると解った。王が視察に出るのでは護衛の数が他の王族の比ではない。王宮の護衛の数はその分割かれて減少している筈だ。
十中八九あの女の差し金だろうが、それでもだからと言って、こんなやり方では一方間違えば放った矢が逆戻りして自分に刺さるくらい解りそうな物だが………。
シリルに掛かった呪いは確かに進行していたが、緩やかではあった筈だ。急ぐ理由にはならないだろう?
「成る程ね………それで?…これを届けてきた者はどうした?」
ルークは自身の考えなど尾首にも見せずに淡々と告げた。
「……別室に待たせてあります。……如何しますか?」
シリウスが言っているのは案に"痛め付け、王都の状況を吐かせる"かどうかだ。
(まったく…………そんな事をすれば自分もただでは済まないこと等解った上で、俺を送り出す事など微塵も考えていない)
ルークはそんな彼が頼もしくも嬉しかった。
シリウスは何時だってルークの味方でいてくれた。優秀な懐刀であり、兄であり、時に父でもあった。
それすらも今まで、礼すら伝えてはいなかった自分をルークは恥じた。
心に余裕がなかった……では言い訳にすらならない事くらい解っていたけれど、リンに出逢うまで、本当に全てがどうでも良かったんだ。
ルークは隣にちょこんと座ってティカップを両手で持って不安そうにこちらを見ているリンを見詰めた。
こんなに華奢な女の子を支えにしている何てと思うけれど、不思議と嬉しく思う。
戻ってきたい、生きていたいと思った。
今までなら、あの女を排除出来るなら俺が何時死んでも良かった。
だけど、今は生きていたい。
俺が死んだあと、誰かが今自分がいる位置に来て、その優しい眼差しを向けて貰えるのだと思うと耐えられなかった。
誰かと幸せになって……何て死んでも言えない。
なら、生き続けるしかないではないか。
「足掻いてみるか………」
ルークはシリウスにサトリを辺境の地から呼び戻す様に伝え、国王に自身が王宮に出向く旨の伝達を頼んだ。
「……ルーク様。………私も御供します」
シリウスは"一歩も引かない"と強い意思を持ってルークの瞳を射抜く。
「シリウスは
ルークとシリウスとのやり取りをルークの隣で黙って見守っていたリンは、シリウスがハッと息を飲むのが解った。
「……必ずお帰りになると約束して頂けるのですね?」
生きる事に絶望していたいルークが初めて見せた、明日を約束する行為。
シリウスは今度こそ引き下がるしかなかった。主が諦めていない以上、臣下も又戦い続けるのみだ。
「ああ………約束する…………シリウス………有り難う」
最後の声は萎んでしまったけれど、シリウスの顔を見れば聞こえていたのは解った。
(くそ……カッコ悪い……)
でも言えて良かった。
ルークはリンに視線を戻すと口を開こうとした……が先にリンの声にルークの声はかき消されてしまった。
「私はルー様と一緒に行きますよ」
置いていかれてなるものかとリンは思った。
私は戦える。
ルーク一人を敵地に赴かせる何て絶対に出来ないし、させたくない。
「リン…………有り難う」
「じゃあ、連れていって…く?」
リンの声が最後まで紡がれる事はなかった。
「効いてきたみたいだね……」
「何……で?…」
薬には免疫があった筈だ。何より、無味無臭で、独特の味も臭いだってなかったはず?薄れ行く意識の中で、リンは必死に考えるけれど、答えは無かった。
リンに入れた薬は、魔女の秘伝の物。
リンには通常の睡眠薬は使えない。服用させる前にバレてしまうからだ。
ルークは、母直伝、薬のエキスパートである魔女の物を使わざる終えなかった。
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