第24話ルークの過去part3
「さて…冗談は此くらいにして、」
そう言うとルークは男のある一部を見て溜め息をついた。
「何ですルーク様。溜め息何て…幸せが逃げて行ってしまいますよ?」
「リンの事は逃がさないから大丈夫だよ……リン、逃げないでね?」
「………逃げませんけど…」
リンは育った環境からかなり鈍いが基本馬鹿じゃない。ルークが自分といる事が自身の幸せなのだと言っている事くらいは理解できた。理解は出来たが、だからと言って何を返したら良いのか迄は解らなかった。
「リン見てごらん」
ルークは寝転がっている男の手袋を取り外すとその一部をさしてリンにも確認するように促した。
指が出て、掌だけの皮製の手袋を取り外した掌には刺青……だと思う印が印字されていた。
「ルーク様、これは…」
田舎で見たことがある印、これは確か王妃様の印。
「そう、これは王妃、バイオレットの印だ」
ルーク様……王妃様を呼び捨て…。まあでも命を狙われていて、敬意を持った態度はとれないか。
「………どうかしてそれを私に教えてくれたんです?」
まあ、知ってはいたけど、まさかルーク様から教えて貰える何て思わなかった。
だって……印事態は特に隠されていることでは無いけれど、それを体に刻む行為はまた話は別になるからだ。
「本当はリンを関わらせたく何て無いけれど、何も知らない方がリンの性格上危険だからね……印は刻む場所によって意味が異なる。これは魔術の一種だから、契約になるんだ。…掌は王家暗部の証。刻まれる印によって誰の直属かが解る。まあ、後の場所は追々教えるけれど、今一番知って欲しいのはこの位置かな」
「ルーク様は、この男を確認する前から、首謀者をご存知でしたね?」
「何故そう思うんだい?」
「態度……と言うよりも目の動きでしょうか」
リンは目の動きで大体の感情を読み取れる様に訓練されていた。
つくづく、育った場所は得体の知れない村だ。こんな事を当然に教え込まれて疑問にも思わなかった。
「………リンに隠し事は出来ないね。そうだよ、知っていた。と言うより予測がついていた、が正しいかな」
「随分落ち着いていますね。…王妃様も、任務に失敗した駒を生かしておくなんて…まるで、解ったところで問題が無いみたいです」
自分で言っていて、言葉に納得して考え事がストンと思考のパズルに当てはまった。
問題が無いんだ。ここは自分が産んだ息子の城。そこに自分の部下を配置してもおかしな事じゃない。寧ろお忍びの形で来たルーク様の方が部が悪い。
けど…でも、ルーク様はシリル様の為にここまで来たのに!!
リンが一人憤慨しているとルークが近付いて来てリンの頬を優しく撫でた。
「怒ってくれて有難う。…敢えてこの男をここに置いておくんだよ、多分もうすぐここに王妃がやってくるから、そろそろ俺達はお暇しようか……ダン、いるのだろう?」
ルークは扉の方向を目線のみで確認した。
するとシリル様付きの侍従が入室してきた。
「………ルーク様、申し訳ございません」
苦渋の表情からは、この男達の侵入はシリル様方の本意では無いことが解る。
「俺に対してならいい………けど、リンを狙ったんだ。それだけは許さない。…俺達は帰るけど、………落とし前だけはつけて報告しろ」
最後は普段のチャラいルークからは考えられないほど、恐ろしく冷えた声だった。
絶対的な王者の貫禄がそこにはあった。
「………御意」
ルークとリンは馬に乗ると急ぎ来た道をか戻った。
「………ルーク様、私は一人でも大丈夫です」
そうなのだ、お姫様のように横乗りで、後ろからルーク様が抱き締める形で馬に乗っているのだ。
如何せん落ち着かない。
どうせなら走るから下ろして欲しい位だ。
「………駄目…リンが直ぐに俺を呼ばなかったバツ。…もう少し距離を稼いだら馬車に乗り換えるからそれまでは大人しくしていなさい」
何故かルークがとても寂しそうに思えて、居たたまれなくなったリンはルークの胸に自分の顔を推し当てた。
ルークはそのリンの行為に気を良くしたのか、リンの頭を自分の顔で刷り刷りと頬擦りすると、先程までの冷えた雰囲気を次第に和らげて行った。
「………ちょっとは落ち着きましたか?」
腕のの中からリンが見上げると、優しくルークは小さな声で『有難う……だから君を手放せない』と言ったのだ。それはホントに小さくて側にいても聞こえ辛い程だったから、敢えてリンは聞こえないふりに徹したのだった。
◇◇◇
ルークとリンは馬車に乗り換えた後、公爵領の近くまで来る頃には夜も更けてしまっていた。これ以上進むのは夜道で危険だからと街の宿場で一泊することにした。
念のため馬車は、少なくとも外側は商人が使用する程度のグレードに押さえられており(まあ、内側は矢も通さない頑丈な作りだが…)、服装も軽少な物に変えている。
ルーク様は良いところのお坊ちゃん感が否めないが、それでも公爵だとバレるよりは増しだろう。
「………ルーク様、事件です」
宿屋の受付をしていたリンが神妙な顔で近付いてきた。
何事かとルークは思ったが、その内容はルークにとっては全然問題がないが、リンにとっては一大事な事だった。
「部屋が1つしか空いていないばかりか、ベットもシングルひとつだけなので、私は馬車で休みます」
「脚下…」
それだけ言うとルークは受付に歩いて行ってしまった。
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