第20話シリルとルークpart2

 ルーク様と私の会話の声は思っていたよりも大きかった様で、シリル様は目を覚ましてしまった。

『う~ん、ん?……』身動ぎしながら目を擦るシリル様は、第三者的視線で見ても可愛い。

 この、美形兄弟め!!…等と心の中で悪態をつくが、リンはシリル様が嫌いと言う訳ではなく、寧ろその純粋さに好感を持っていた。


「兄上様……近くにいて下さいますか?」


 ルーク様の服の袖を小さく掴み円らな瞳で訴えかけられれば、ルーク様とて頷くより他はない。可愛いは正義だ。

 それはルーク様も同じだった様で、シリル様の頭を撫でながら『側にいるから安心しなさい…』と声を掛けていた。

 一人掛けの椅子では休めない。薬を作る段階から馬車で跳ばしてこの城まで来たことを考えてもリンとしては、主に身体を休めて欲しかった。仕方がないからリンは、長椅子を持ち上げてシリル様のベットの側まで運んできた。


「………リンは力持ちさんだね……」


 ルーク様は複雑そうな顔をしていたがリンは気にしない。

 そしてその言動が、使用人としてどうなの!?と言う物であってもリンは気にしない。

 ルーク様が良いと言っているのだから何が問題が有ると言うのか?


「ちょっとそこ退いて頂いて宜しいですか?……一人掛けよりこちらの方が宜しいと思いますので代えます」


 リンが長椅子を下ろしてルーク様が座っている椅子を運ぼうとすると、ルーク様は自身が座っていた椅子を持ち上げ退かしてくれた。


「申し訳御座いません、有り難う御座います……ですが'…私がやりましたのに」


 主を動かせてしまった、あまり誉められた事ではないの位、まだ勤めて日が浅いリンにも解った。


「女の子に重いものを運ばせるのは矜持に反する」



 ちょっと不機嫌そうにルーク様は顔を斜めに背けて言った。


「………長椅子をここまで運んで来ましたが?」


 今更女の子がどうとかそんな事を気にするなら、もう少し気にして欲しい事は他にあるのだが……。


 だからと言ってその事を伝えても仕方がないので、リンは事実を伝える。


「うん……不覚にも驚いて反応が遅れてしまったよ」


 今度は素直に頷くルーク様を、こんなところはシリル様と兄弟だな、とちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。


「こちらの方が少しはお休みになれるでしょう」


「有り難う、リン。……リンは優しいね」


「その言動は照れるので、止めて貰えますか?」


 私達二人のやり取りを見ていたシリル様がクスクスと笑いだした。


「お二人は仲が宜しいのですね」


「そうだよ」

「違います」


 二人同時に答えた内容は真逆なものだった。

 だって、シリル様が仰っている仲が良いとはきっと違う。

 あくまでも私とルーク様は主と使用人だから。


「仲がいいのは良いことですよ?……リンさん、僕とも仲良くして下さいますか?」


 ミニチュアルーク様にそんな事を言われたら………、何故にこんな天使みたいな可愛さから、男の屑の様な男に成長したのか!!…と言いたくなってしまう。

 まあ、人としては屑じゃないから仕えていられるんだけれどね。


「私の事はどうか…リン、とお呼び下さい」


 さん付けはちょっと……だって、相手は王子様だしね。

 身分をそんなに気にしていないけれど、今は公爵家の使用人なので、働いているうちは勤め先に従うのは、当然だろう。

 それが犯罪では無い限り……だ。


「兄上の大切な方を呼び捨てになど出来ません」


 事の成り行きを私が持ってきたソファーに座りながら聞いていたルーク様だったが、静観していたのは最初のうちだけだった。


「リンは俺の大切な人だから、シリルもリンにはそのつもりで接してくれ……それと、もう寝なさい。側にいてあげるから」


 うん、後半の件は大変良いが前半は要らない。…そんな私の心の中の突っ込み等知るよしもないルーク様はシリル様を寝かし付けると、私にも隣に座る様に促した。


「いえ……」


 笑顔が怖い。

 断ろうとした私を無言の笑顔が制した。


「では……お隣……失礼します」


 ちょっと片言になってしまったのも無理はないだろう。だって、公爵だって雲の上なのに、実は王族でしたって、何それ!?って考えてしまう。

 正直、面倒くさい。

 私はシンプルが良い。今、この公爵家に勤めているのもお金の為。食べていく為だ。

 それ以外でも以下でもない。何より大事なのは生きていく事だから。


「うん、どうぞ」


 初めは嬉しそうにしていたルーク様だったが、リンが離れた位置に座るとまたも無言で距離を詰めてきた。


「………近いです」


「近付いているんだよ」


「何の為にソファーを持ってきたと思っているんですか……」


 呆れながらリンは苦言を呈した。

 休んで欲しいのは本心だから。


「リンと一緒にいたいんだよ」


 ルーク様はソファーの背に手を回した。

 それは必然的にリンの肩に腕を回している様な距離感となり、この距離は恋人と呼ばれたり家族と呼ばれる人達のパーソナルスペースだ。


「………」


 お互いの心臓の音が聴こえる距離感にリンは声を言葉にする事が出来なかった。


「リンの匂いは落ち着く……」


「ルーク様、匂い嗅がないで下さい。変態ですよ?」


「………みたい、じゃなくて変態と言いきるところがリンだよね。でも良いんだ。敢えて甘んじてその総称を受け取るよ。でもそれはリン限定でね?」


 何故だろう?…攻撃したら、自分の攻撃を倍返しで跳ね返された感。

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