第12話この場所に来た目的とは…

朝目覚めると、やはりと言うか何と言うか、ルーク様の腕の中だった。

付け加えて言えば、目の前には、何故か鍛えられた胸板がある。


「…………」


リンはもはや驚きもしないと、それが当然に成りつつある日常に少しだけど、不安を覚えた。

父親が死んでから、ずっと一人で頑張っていく覚悟を決めた筈なのに、いつの間にか何だかんだで、甘やかされている自分。

それに慣れつつある自分に、これが当然じゃ無くなったらどうするの?

立ち直れるの?と問い掛けるけど、勿論答えなんかは無かった。

そんな事を考えていると、突然ぎゅっと抱き締められた。

おかしい、ルーク様は寝ている筈なのに…。

リンは自分の頭より上にあるルークの顔を見上げる形で観察した。


「…………寝ている?………ん!?」


突如今度はお尻辺りを撫でられてしまった。

これは、絶対に寝てない!!そう確信したリンは、思いっきりルークの頬をつねり上げた。


「りふ、いはいよ?」

「やはり起きてましたね!?」

「ひまおひはんやよ(今起きたんだよ)」

「嘘です!!」


少しの間、私にされるがままになっていたルーク様だったが、話が出来ないと解ると優しく私の手を包んで、自分の顔から離した。

だからなのか、ちょっと絆されてしまい、全力で怒れなくなってしまう。


「リン?ごめんね?」


くっ!!妙に色気のある謝罪に何故か朝から顔が赤くなるのが解った。

美形なら何をしても良いと思うなよ!!


「許しません!!」

「ごめんね?」

「…………」

「ごめんね?」


このやり取りを何度繰り返した事だろう、根負けした私は条件を付けた。


「もうしませんか?」

「…………」


今度はルーク様が黙りしてしまった。


「ルーク様?」

「……出来ない約束はしない主義だ」

「絶対にダメですよ!?」


真剣な眼差しでそんな事を言うものだから、私もつい強い口調になってしまう。

ホントにからかうのはやめて欲しい。




◇◇◇

一悶着あった目覚めから一時程たった頃、サトリ君が慌ただしくルーク様を訪ねてきた。

と言っても、ドアからではなく窓からだ。

(あれ?…ここ確か3階……うん、考えるのは止めよう)

許可なく入室する等あってはならないことだが、ルーク様は特に咎める事はしなかった。

サトリ君の様子からしても、普段から入室に許可は必要ではないらしい事がリンにも解った。


それにしても明るい場所で見るサトリ君は、ルーク様とはまた系統の違う美形だった。

ルーク様が正統派王子様なら、サトリ君はちょっと悪い感じが入った影のある美形。

(昨夜は顔なんて解らなかったからなあ…)

赤茶色の髪を短く刈り上げ、身長はルーク様より少しだけ高いだろうか。

切れ長の目に、均整の取れた引き締まった身体からは、鍛えられていることが良く解る。

リンとて、武道を嗜んでいる端くれだ。

サトリ君がどれ程強いのかはある程度図ることが出来た。


「どうした?」


表情を変えずに淡々とルーク様が訪ねる。


「奴等に動きがありました」

「そうか……人員は?」

「三手に別れ引き続き偵察しています。…そのまま指示があれば何時でも突入、制圧できます」


そこまで聞いてやっと、リンはこれは自分が聞いていて良いことではないと解った。

サトリ君が窓から入ってきた事に少し驚いて失念してしまっていた様だ。

我ながら鈍い。

少し遅い気もするが、リンはそっと席を外そうとした。


「リン?……どこに行くの?」

ルーク様は私の前に座っており、私はソファーの背の後ろにいて、気付かれる筈なんて無いのに、気付かれてしまった。

(彼は背中に目でも着いているのだろうか?)


「……すみませんでした」


脱出に失敗した私は、無駄な抵抗を止めて潔く謝罪する事にシフトチェンジした。


「何の事かな?」


きっと、私が言っている意味は理解してくれている。

一緒に居る機会が多かったからこそ気付けたのだが、ルーク様は勘が鋭い。


「私が聞いていて良い話ではないと気付くのと、席を外すのが遅くなりました」


自分は仕事をしに来ているのだから、ぼへらっとしていて良い話ではなかったのだ。


「リンに聞いていて欲しくない物なら私が退出を促しているから、大丈夫だよ」

「ですが……すみません」


大切な話をしていたのに、またも話の腰を折ってしまった。

私、執事見習い失格ね。

元々メイドなのだが、そこは仕事だ。

出来ない、は言い訳だろう。


「リンに側にいて欲しいのは俺何だからね?」

再度フォローされると居たたまれなくなってくる。


「リン、男装も良く似合ってる」


と場違いな事を言ってくるのはサトリ君だった。

顔だけみると、玄人顔負けの強面なのだが、うんうん頷きながらそんな事を良いものだから、良い具合に張りつめていた緊張が解けてしまった。


「……有り難う?…で良いのかな?」


サトリ君の表情からは心から言ってくれているのだろうけど、(サトリ君は人形の様に無表情だけど、何となく考えが解るんだよね、不思議と)年頃の女の子としては複雑だった。


「無論、誉めている」


サトリ君がそう言うと、ルーク様が対抗する様に『リンは、女の子の格好しても可愛いよ!』と言ってくるから恥ずかしさで頭がパンクしそうになってしまった。


「って言うか、私が言うのも何ですが!!こんな事を話していて良い状態では無いのでは!?」


恥ずかしさの余りちょっと声が大きくなってしまった。


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