CHAPTER 17


 一連の事件はヒーロー達によって、魔人ヴァイガイオンとその眷属達が倒されたことで、解決となった。

 その後速やかに、帝国中の魔術師メイジをかき集めて臨時治療院を設立したこともあり、民間人から死者が出ることはなかったのだという。


 輝矢君……テルスレイド派の貴族諸侯も牢から解放され、今ではジークロルフさんと共に、戦いで壊れた広場や街の復興に尽力している。地球に避難していた孤児院の子供達も、ようやく安全になった帝国へと戻って来てくれた。


 一方、ルクファード陛下を唆して魔人を復活させた家臣達は、極刑にすべきという声もあったが――輝矢君の温情もあって、僻地への左遷ということになっている。


 当のルクファード陛下は、無辜の異世界人を死刑にしようとして国民を混乱させたとして、皇位を輝矢君に譲り牢に入ることを望んでいた。

 しかし輝矢君自身が和解を望んだことにより――セイクロスト帝国は今、「2人の皇帝による統治」という、前代未聞の新時代を迎えている。


 正直。これから先はずっと平和に暮らしていける、とはちょっと思えない。

 きっと今後も、魔人を復活させた家臣達のような人々は現れるだろうし、その度に輝矢君も私達のために戦うことになるのだと思う。


 ――けど。いつかまた、そんな日が来るとしても。恐れることはないのだと、今なら信じられる。


 彼も、私も、1人ではないのだから。


「さぁ、誓いのキスを」


 そして、今日。純白のウエディングドレスに包まれた私は――礼服を纏う輝矢君と共に、宮殿で式を挙げていた。

 地球のそれとよく似たバージンロードを歩み、神父役を担うルクファード陛下と参列者達に見守られながら。私は、黒髪黒眼の日本人に「変身」している輝矢君と、視線を交わす。


「花奈……」

「……うん」


 銀色の長髪に、紅い瞳。それが輝矢君の本来の姿だということは、知っているけれど。

 私が好きなのはやっぱり、出逢った頃と変わらない――この姿だ。「皇后」になっても、この世界で生きていくことになっても。私はそれでも、穂波花奈ほなみはなだから。


 ――やがて、私と輝矢君は唇を寄せ合い。静かに重ね、結ばれる。


「花奈ねーちゃあん! にーちゃあん!」

「花奈、おめでとう! 本当に……おめでとうっ!」

「ふぐ、うぅッ……! テルスレイド殿下ッ、ハナ様ッ、ご立派ですぞ……! このジークロルフ、な、波が止まりませぬッ……!」


 その瞬間を見届けてくれた、紗香をはじめとする参列者の皆と、孤児院の子供達は――優しい拍手で、私達を祝福してくれていた。ジークロルフさんも、包帯だらけの身を押して参列してくれている。


 20年前の事故で、家族が離散してからずっと。こんな風に、自分の恋路を叶えられることなんて……ましてや、誰かに祝ってもらえる日が来るだなんて、考えたこともなかった。

 自分はせいぜい、咎人くらいにしかなれないんだと、ずっと諦めようとしていた。……それでも、そんな私にも、手を差し伸べてくれる皇子様がいる。子供達がいる。


 それなら、せめて……幸せになりたい。こんな私を助けてくれた、全ての人達に報いるためにも。

 だから。


「輝矢君」

「ん?」

「……ずっと、愛してるね」


 それを誓うように――私は再び、彼に唇を捧げる。


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