CHAPTER 16


「ふぅっ……ようやく片付いたのね。お疲れ様、06」

『グゴッ!』


 紗香も戦いの終わりに安堵し、共に戦っていた06の巨体を撫でている。2mを優に超えるほどのサイズを持つ06だが、主人に撫でられて喜ぶ様は、犬のようでどこか可愛らしい。


「……ふふ。やはり、最後に勝つのは我々……そして私、であったな」


 一方。力尽きた様子で尻餅をついたロイドハイザー将軍は――何か、様子が変だった。

 叢鮫さんの背を遠くから眺める彼の身体が――少しずつ、溶けて行く。魔人の眷属でもなんでもないはずなのに、その巨体は今にも消えてしまいそうだ。


「えっ……!? ちょっ、あんたどうしたの!?」

「……君のような、若者の頃だったよ。故郷の村に毒ガスを撒かれ、私が子を為すことが出来なくなったのは」

「あ、あんた何を言って……!?」


 それに気づき、慌てて駆け寄って来た紗香に対して、彼は譫言のように何かを呟いている。何の話なのかは、さっぱり分からない。


「私に子供は、家族はいなかった。持てなかった。……だからせめて、名を残したかった。私という人間が存在していたことを、どこかに刻んでおきたかった」

「あんた……」

「君を殺した後だったよ……私はただ子供が欲しかったのだと、思い出したのは。いや、それよりもずっと前から、私は思い出していたのかも知れん。戦闘改人に子を為す能力など、不要だというのに……私は、取り除かなかった。なぜなのか、私にも分からなかった……」


 傍らに腰掛ける紗香の方には、全く目を向けず。彼は虚ろな瞳で黄昏色の空を仰ぎ、譫言を呟き続けていた。

 すでにその身体の、半分以上が溶解している。


「君を殺して、何が残った? ……何も残りはしない。軍は潰れ、後継もおらず、私の名も朽ち果てた。唯一、私に比肩しうる力を持っていた君を失い……私は、せめてもの名すら、無くしてしまった」

「……」

「だからこそ、ここへ来たのだ。私は滅びぬ。私を知る君が生き続ける限り、決して滅びぬのだ……なぁ、ハヤトよ」


 そして最期に、叢鮫さんの名を呼んで。ロイドハイザー将軍の身体は、完全に溶けて、無くなってしまった。

 彼が言い残した言葉の意味は、分からなかったけど。死に際に見せた安らかな貌だけは、紗香も私も、はっきりと覚えている。


「……残せたものなら、ちゃんとあるよ。多分、ね」


 彼女なりに、何かを察したのだろう。先程までロイドハイザー将軍が居た地面を、優しく撫でた後――紗香は微笑を浮かべて、歓声を上げる人々やヒーロー達を見つめている。


「……」


 ――そして。遠くに立つ叢鮫さんは、僅か一瞬だけ。

 肩越しにロイドハイザー将軍がいた場所を、静かに見遣っていた。


 最期に残された彼の言葉は――聞こえていたのだろうか。


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