CHAPTER 10


 一方。そんな火弾さんの近くでは、私達の味方に付いてくれた「鬼」が輝矢君と共に戦っている。


「――雷光拳らいこうけん雷迅撃破らいじんげきはッ!」


 輝矢君が鉄球を振るい、鋼鉄食屍鬼達を蹴散らしていく中で――その隙間を縫うように、素早い身のこなしで残りの敵を打ち倒していく徒手空拳の「鬼」。

 彼は雷を纏った拳を振るい、鋼鉄食屍鬼達の群れを次々と消し飛ばしていた。その威力は凄まじく、余波を肌で感じていた輝矢君も息を飲んでいる。


「……凄い威力ですね。でも、その姿……あなたは一体……」

「ちょっと鍛えてるだけの、ただの鬼さ」

「鬼!?」

「あぁでも、西洋のイメージとはちょっと違うんだよ。……ここは西洋じゃなくて、異世界らしいんだけどな」


 輝矢君は「鬼」という単語を持ち出され、緊張を露わにしていた。この帝国において「鬼」とは、恐ろしい悪魔のような存在として言い伝えられているためだ。

 しかし、「鬼」として戦っている彼自身としてはそういう反応も慣れているらしく、輝矢君の肩を軽く叩きながら気さくに接している。


「ま、要するに俺は敵じゃないってこと。わかる?」

「……それは、まぁ、もちろん」

「なら良し。あのアイスラーって人が言ってた通り、君が聡明なヤツで良かったよ。その鉄球もイイね、『鬼』って感じだ!」


 そして、輝矢君の行く手を阻む悪鬼の群れを薙ぎ倒しながら――彼は次の獲物を追うべく、その場から走り去ってしまうのだった。


「……今のって褒め言葉、だよな」


 そんな彼の背中を見届けながら――輝矢君は何とも言えない表情で、手元の鉄球を見下ろしている。

 「鬼」というものにネガティブなイメージを持っていた彼にとっては、衝撃的な出会いだったのかも知れない。


 その一方で、青いパワードスーツで全身を固めている金髪の少年は――似通ったカラーリングの装甲を持つ火弾さんと共に、大立ち回りを見せていた。

 軽やかに地を蹴り、突きや蹴りで鋼鉄食屍鬼達をなぎ倒していくその姿は、まさにテレビの世界から飛び出して来たヒーローのようである。


「ブルーとブルー……僕達お揃いですね、火弾さん! ヒーローの色って感じ!」

「ちょっ……おい! あんまり無茶するんじゃねえぞ、たける!」


 ――が。彼はどこか浮かれたような雰囲気を漂わせており、火弾さんからも心配されているようであった。

 そんな中、特撮さながらに彼が跳び上がった瞬間を狙い――怒り狂う鬼達が、迎え撃つようにジャンプしたのである。無防備な空中にいる少年目掛けて、無数の牙が迫ろうとしていた。


 言わんこっちゃない。そう言わんばかりに、火弾さんは右腕を砲身に変形させて、少年を襲う鬼達に照準を合わせる。


「なら、確かめてみます? ――僕の覚悟が、本物だってこと!」

「……!」


 だが、それよりも遥かに速く。一瞬で、バイザーに隠された眼の色を変えると――少年は空中で身を翻し、飛び蹴りの体勢に突入した。


「レヴァイザー……キィイック!」


 その直後に放たれた必殺の一撃は、彼に肉薄していた鬼達を纏めて弾き飛ばしてしまう。それを目の当たりにして、ようやく私と――火弾さんは理解した。


 浮かれたように振る舞うのも、大仰に跳び上がったのも、全て油断を誘うための一芝居に過ぎなかったのだと。

 先程までとは別人のような「戦士」としてのオーラが、その解釈に確信を齎している。油断していたのは彼ではなく、鬼達の方だったのだ。


「……あ、あぁ、うん。もちろん俺は分かってたぜ? お前は出来るヤツだって。何たってお揃いだもんな、俺達」

「はいっ! 特にブルーとブルーですからね! 戦車タンク戦車タンクを掛け合わせたら、そりゃあ最強ですよっ!」

「タ、タンク……?」

「あれ、ご存知ないんですか? 特撮ヒーローっていえば、アレは外せないでしょ!」


 そして火弾さんは、掌を返したように少年を褒めちぎっていた――のだが。「猛」と呼ばれている彼は再び、先程のテンションに戻ってしまっていた。

 どうやら特撮番組の話らしいのだが――果たしてあれは演技なのだろうか、素なのだろうか。


「……ふんッ!」

「はぁあぁあッ!」


 その頃。魔人の元を目指す叢鮫さんは、彼の救援に駆けつけていた黄金の戦士と共に、鋼鉄食屍鬼達の群れに突撃していた。

 満身創痍となった身を引きずりながら、盾を振るい続けている彼を庇うように――黄金の戦士は、鮮やかな剣捌きで彼を襲う敵を斬り捨てて行く。


「……出来るな。しかも、まだかなりの余力を残しているように見える」

「この乱戦で使うには、『ゴーライガー』は強力過ぎますから」


 どうやら黄金戦士の方はまだまだ余裕があるらしく、息を切らしている叢鮫さんとは対照的に――ある種の「美しさ」さえ感じられるような戦い振りを披露していた。

 そんな彼自身も叢鮫さんの奮闘には驚嘆しているらしく、誠実な眼差しで錆び付いた盾と鎧を見遣っている。


「あなたこそ、決して優れた装備ではないはずなのに……凄まじい継戦能力をお持ちですね。現時点でも、宇宙刑事ならA級はくだらない」

「俺がA級なら、お前はさしずめ……S級と言ったところか?」


 「戦闘改人コンバットボーグ」とは、21世紀後半に初めて実用化された改造兵士サイボーグソルジャーのことだと、歴史の教科書で読んだことがある。叢鮫さん――もといCAPTAIN-BREADがそうだとするなら、私がいた22世紀の地球においては「旧式」の技術だ。


 あの黄金戦士が使っているような超科学の装備の前では、酷く古臭いスーツに見えてしまうはず。にも拘らず叢鮫さんは、決して彼にも見劣りしない戦いを続けている。

 叢鮫さん自身の技術がその差を埋めているのか、あの人の方が叢鮫さんに合わせているのか――あるいは、その両方か。いずれにせよ、2人のヒーローが肩を並べて戦っているこの景色だけは、紛れも無い事実であった。


 黄金戦士は、そんなスペック差の中で戦い続けている叢鮫さんから、一瞬だけ目を離すと――居合いのような一閃で、目前に迫っていた鬼達を縦一文字に斬り裂いてしまう。


「いえ、僕はSS・・級ですよ――ライトニング・エクスプロージョンッ!」


 その一言と共に向けられた眼差しはまるで、負けていられない――と言わんばかりであった。


「いい剣だな、SS級」

「『宇宙刑事ライガ』です、A級……いや、S級相当の改造兵士サイボーグソルジャーさん。あなたの盾も、実にいい」

「……『CAPTAIN-BREAD』だ、ライガ」

「なるほど。では、頼りにさせて頂きますよ。キャプテン!」


 その一方で、確かな敬意も表しながら。ライガと名乗った黄金戦士は、手にした剣を振るい迫り来る鬼達を迎え撃って行く。


「……大したヤツだ」

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