第24話 司の従姉妹
「ふーん。そんなこと、あったんだ。どーりで今日のツカサの動き、前より大胆で、厄介だったワケだ。納得」
「あははっ、ちょっとびっくりしてたもんね。ミソラちゃん。すごかったでしょ? 天龍くん」
師匠の家で色々あった日から幾ばくかの時が過ぎて、俺がこの組織に入ってから、およそ2ヶ月が経過しようかという頃。
今日は学校が休みである故に、半日組織の基地へ行ってトレーニングに励んだ後、ミソラさんと佐倉さんとでスイーツ店に来ている。
……うん。側から見たら「リア充」に捉えられかねないけど。てか俺の従姉妹が見たらそう言いそうなものだけども。
俺からしたらそんな綺麗なものに捉えられない。
だってこれこの前のミソラさんの一件に対する佐倉さんに向けたお詫びだもの。佐倉さんが食ってるスイーツ代ほぼ俺持ちだし。
そして更になんかミソラさんまでくっついてきてるし。どっから嗅ぎつけてきたのやら。
「ん、そだね。それにこのスイーツ代、持ってくれるなんて随分と太っ腹」
「……佐倉さんはともかくとして君は自分で払って。この前の一件の主犯格じゃんか」
「前言撤回。……
「ケチ野郎って言ってんでしょ。わかってるからな」
膨れっ面して口悪く罵っても譲らないからな。なんかヤケ起こしたのか大きめのパフェ一個頼んでたけどそれ自分で払ってよね。
「……む、
「いや、どうしてそうなる。てかまだまだミソラさん本気じゃねーだろ。余裕残して相手されてる時点でどう調子に乗れと」
そう。師匠の教えを受けてから、前よりは幾ばくかは良い動きができるようになってきた。けど、まだまだだ。ミソラさんのような実戦慣れした熟練の諜報員達には、まだ年季の上で勝てない。
……これとばっかりは慣れていくしかないんだろうな。いや、危険と隣り合わせの「仕事」に対して「慣れ」なんて言葉、使いたくはないけれど。
「もうすぐ2級に上がりますー、くらいの奴が1級諜報員に半分以上の力で相手してもらってる。これで十分、でしょ」
「もう、ミソラちゃんそんな言い方っ……。ごめんなさい天龍くん。でも、私達1級の諜報員は2級Bクラス程度なら軽く捻れちゃうのが普通なんです。だから私、彼女の不満も少しわかっちゃうんですよ」
「……やっぱり上に行くにはプライドもある程度、必要なのかなって思わされるよ」
ある程度余裕を持って相手してもなお不満を感じるなんて、常に自分の力に高い自信を持ってる証左だ。まぁ実際、彼女達は高い実力を持ってるから、そのプライドの高ささえ納得してしまえる。
でも、そんな感情を俺に対して抱くってことは、ある程度俺の実力を認めてくれたってことだろうか。
そう思うと、なんか嬉しくもある。
「でも本当、予想外。単純な戦闘力だけなら、2級Aクラス中堅くらいの実力、あるよ。ナツキといい勝負、できるんじゃない?」
「……そういえば気になってたんだけど、津浦さんてランクどれくらいなの?」
「1級20位。1級の中じゃ下の方。でも、まだ上がりたてだから」
「それでも十分すごい気が」
まぁ、クラス自体は諜報員としての成績が総合的に加味されて決まるらしい。だから単純な戦闘力だけで……ってわけではないんだろうし、一概には言えないのだろう。
でも、高く評価してもらえたことは、嬉しい。
それにしても、津浦さんも1級クラスの諜報員だったのか。本当、彼女たちに追いつくにはまだまだ遠い道のりだ、という事を実感させられる。
「心配しないでください。天龍くんはこれからですよ。みんな実戦を経験して強くなっていきますから。まぁ、任務から無事に帰って来ることが前提にはなりますけど」
「……死なないように頑張るよ。うん」
「まぁ初めのうちはそんなにハードな任務、与えられないと思う。けどツカサ、ボスのスカウト経由で組織に入ってる。だから、どうなるか……」
「ねぇ、更に不安にさせるようなこと言わないでくださいよミソラさん」
まぁ、こんな感じで、ちょっと不安になるような話だったり、そもそもの話が物騒だったりはするけれど。
ちょっと今時のスイーツ店で、こんな風にトークに興じる様は、ちょっと高校生らしいんじゃないかなと思う。
いや、側から見たら当然の、ごくありふれた風景なのかもしれない。けれどここにいるのは日々危険に身を置く諜報員達。そんな人達がこうして和気藹々と、年並に会話しているのを見ると、どこか心がほっこりとする。
暫く、そんな雰囲気で時間が過ぎて行く。
時計を見ると、午後の3時を回っていた。
彼女達には申し訳ないけど、そろそろ俺はお暇だ。この後予定が入ってる。
「ごめん2人とも。俺そろそろ行かなきゃ。佐倉さんは……ここに代金置いておくから、足りなかったら言ってね」
「あ、ありがとうございます。そっか。今日は確か……」
「うん。夜から従姉妹に会いに行く予定。向こうの家族も楽しみにしてくれてるみたいだから」
「へぇ、ツカサの家族って仲良いんだ。いいな」
目の前にいる2人の女の子はそれぞれ行っておいで、と口にして、ひらひらと手を振る。
ちょっとその姿が可憐でドキッとしたのは別の話だけど、ありがとう、と会釈してその場を後にした。
◆◇◆
「あらいらっしゃい司くん。久しぶりね」
「……と言ってもひと月ぶり、くらいですけど、そうですね。久しぶりです真美おばさん」
場所は変わって従姉妹の家。インターホンを押すと、叔母がにこやかに出迎えてくれる。
この人は母さんのお姉さん。故に今日会う従姉妹というのは母方の親戚に当たるわけだ。
「お母さん達はもう少し後から来るって言ってたから、中に上がって待ってなさい。みどりも会いたがってたし」
「そう、ですか。みどりちゃんは元気ですか?」
「ええ。相変わらずひねくれてるけどね。ほら、みどり。司君来たわよー」
リビングまで俺を案内するとおばさんは、そう彼女を呼ぶ。
すると、ソファの影から、ひょこっと顔を出す人が、1人。
「き、来たわねリア充。どうせ今日も友達と仲良くカフェにでも……」
「こら。また貴方はそうひねくれて。今日楽しみにしてたくせに何言ってるの。ほら、しっかり挨拶!」
「……んぐ。もうっ。こ、こんにちは、司兄ぃ」
少し小柄で、眼鏡をかけた女の子。
俺にはおばさん譲りの美少女に見える。けど、本人が少し卑屈なものだから、少し勿体無いな、なんて思ってしまう。
でも、そんなひねくれてて、卑屈なところも含めて、大好きな一個年下の従姉妹。
「うん。こんちには。みどりちゃん」
この時俺は、知る由もなかった。
彼女が、この組織に、佐倉さんに大きく関わってるってことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます