第16話 復讐できる可能性?
新聞に載っていた小さな記事は、韓国でのニュースでした。
私のように幼少期から性虐待の被害に遭っていた女性が相手の男性を刺殺したんですけれど、裁判では女性側に無罪判決がおりたと言うものでした。
この記事を何度も何度も読み、私の心の奥底に沈んでいたパンドラの箱が開くのを感じました。
もちろん、私は雄一を憎んではいますが、暴力に対して暴力をと言う解決方法は取りたくありませんでした。
まず物理的に両者が住んでいる場所があまりにも離れていますし、実際に雄一を目の前にしたら、昔のよしみで犯される可能性もあります。
対面することは避けたいけれど、何かいい方法はないものかと考え、まず夫にすべてを話しました。
夫は「あなたが納得する方法で解決しなさい。協力するから」と言いました。
最初に無料の法律相談に行きました。
当番だった初老の男性弁護士さんに事情を話すと「そんなことあり得ない」と一蹴されました。
きっと交通事故や相続や離婚のトラブルしか扱ったことのない弁護士さんだったんだと思います。
私の言葉をすべて否定する態度に、その時は知らなかった言葉、「セカンドレイプ」そのものを感じました。
「無料の法律相談なんて使い物にならないわ」車で待っていた夫に言って、その日は帰宅しました。
それからしばらく相談機関がないものか探しました。
どうやら県営の女性支援センターのようなものがあるようで、そこに相談機関があるらしいことを見つけました。
電話をしてみるとたしかに話を聞いてくれて、女性問題専門の弁護士さんがいるので、訴訟を起こすなら紹介をすると言われました。
私の心に希望の光が灯りかけたんですが、それっきりでした。
どう言う事情があったのか知りませんが、相談員さんが話を握り潰しちゃったんです。
私は1年間待って、それから再び電話をしました。
そこからの展開は早かったです。
被害を受けた場所、つまり札幌で裁判を起こす必要があるので、札幌の弁護士さんを紹介すると言われて、教えられた弁護士事務所に電話をすると、大まかな話は既に通っていて、「遠方に当たるので今すぐ相談は受けられないけれど、私が出張でそちらに行くこともあるので、その時にお話をしましょう。それまでに思い出せる範囲内でいいですから、被害の内容を具体的に時系列に沿って書いておいてください」と言われました。
私は裁判所で雄一と対面することになるのか、それが一番怖かったので質問をしたら、「今回のケースの場合は被害者は別室で出廷することが可能ですよ、対面するのはつらいでしょう」とのことでした。
裁判の費用についても「法テラス」と言うものがあって、勝てる裁判だったら弁護士費用の立て替えをしてくれるとの話でした。
「法テラスの申し込みについては実際にお会いした時にできるように書類を準備しておきます。被害の状況を先に郵送してくださいね」と柔らかい物腰の弁護士さんでした。
追記して置きますと、当時の性虐待の時効についての考え方は、被害に気付いてから10年だったか20年だったか、とにかくあの韓国人の新聞記事を読んだ日が私の被害に気付いた日と解釈されたようです。
現在は冤罪を防ぐ目的もあり、もう少し時効の成立が早まっていると聞きましたが、それはおかしいと思います。
10歳の子どもが犯されたとして、それをレイプと主張できるでしょうか。
アメリカ人くらい自己主張の激しい国民性ならできるかも知れませんが、一般家庭に育った日本人のメンタリティには酷な話でしょう。
これは現実的ではない考え方だと思います。
私はたまたま思春期にいじめに遭って、学校を2、3回サボった程度で済みましたが、具体的なPTSDの症状で苦しんでいる性虐待サバイバーの女性は多いと容易に想像がつきます。
私はパソコンに向かい、雄一がいつどんなことをしたのか泣きながら書きあげました。
書き終わった時にはさすがに、私は生まれてこなければ良かったと思ってしまうくらいつらい作業でした。
けれども弁護士さんは、「相手も当然弁護士を立てて来るでしょうから、あなたは裁判所でもっと酷いことを色々聞かれると思いますよ、大丈夫ですか?」と念押ししていました。
もう、片道列車に乗ったと私は覚悟を決めて、書類を弁護士さんに郵送しました。
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