14.彼女の予感

 明鏡大学を出た美月と松田は青山通りを歩いて宮益坂に向かう。松田の隣を歩く美月は浮かない表情だ。


『清宮って後輩のこと心配?』

「あまり人の事情に立ち入ってはいけないのはわかっているんですけど……。でも何か嫌な予感がするんです。芽依ちゃんに何も起きないといいなって」

『今まで散々危ないこと経験してきた人の勘?』

「危ないことって……! 確かに色々ありましたけど最近は何もありませんし……」


 2年前まで美月の周りは騒がしかった。高校時代は殺人事件に巻き込まれ、犯罪組織の人間と関わりを持ったりもした。

口を尖らせる美月の頭を松田は苦笑いしながら撫でた。


『ごめんごめん。拗ねるなよ。心配ならその後輩に記者が調べてるみたいだから気を付けろってさりげなく言っておきなよ』

「そうですね……。そうします」


松田の微笑みにざわついていた心も和らぐ。恋人ではないけれど松田が大切な存在であることに変わりはない。

生きていれば大切な存在は増え、守りたいものも増える。きっとそれが“生きる”ということなのだ。


 宮益坂に面したサンドイッチ専門店は注文の列は賑わっていても二階のイートインスペースは美月の予感が当たって空いていた。


(出版社……そうだ! あの人なら何かわかるかも)


昼食時間を過ごす最中もちらつく西崎沙耶の残像。松田の言うようにカルチャー雑誌の記者が大学生に取材依頼をするのなら納得もいくが、西崎沙耶は社会部の記者だ。


沙耶の目的が気になる美月はある人物と連絡を取ることを心に決めた。

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