エピローグ
「やあ、ご苦労だったね、勇者くん」
ある日の夕方、滝沢は共同墓地に出向いた。
その後、王女殺害の罪で国王と騎士団長は逮捕された。
町はかなりの騒ぎとなったが、次なる王が即位することで若干は治まるだろう。
「今日は執事さん、居ないんだな」
「ああ、休暇を取らせたよ。ここ最近働き詰めだったものね」
「そうか」
この日は久々に、暖かい風が吹いている。
滝沢は隣の墓石に座った。
「俺は……魂を救うことができたんだろうか」
まだ黄金色に輝く夕日をみて、つぶやいた。
「さあ、それは死者に聞いてみないとわからない。真実を確かめるために、キミは墓を掘り返すのかい?」
「……いや、それはやめておこう」
「ふふ」
初めてみせた、墓守の人間みたいな微笑み。
それは夕暮れに染まって、どこか切なげで──
滝沢は立ち上がって、1歩前を歩いた。
強い風が吹いた。
木の葉が舞い散る中で、はっきりと、滝沢は口にした。
「あなたを殺したのは、誰ですか?」
背後に佇む少女。
鎌を肩にかついで、黒い服装を着飾る──ただ一人の女の子。
「……やはり気付いていたんだね。キミは」
少女はそう言って、また微笑んだ。
実体を伴う幽霊。
そんなものは聞いたことが無い。けれど──
「ボクの体は魔力で実体化されている。霊魂を元に死体を媒体して……いや、これ以上話すのはよしておこう」
あまり自分の正体を話すのは好きじゃないみたいだ。
「それと、ボクを殺した犯人についてだが──」
少し黙った後に、つぶやいた。
「──私を救ってくれるのかい?」
「ああ」
「やはり、勇者だね、キミは」
墓守は墓石から降りると、夕空に向けて手を広げた。
「語る前に──祈ろう。今度こそ、救われない魂への鎮魂歌を」
そうして、少女は歌い始めた。
どこか、聞き覚えのある、そんなメロディーで。
第一章 完
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