第29話 崩れる夢
私達は目の前にいるのに、まくら返しには見えないようで、きょろきょろとまくら返しは辺りを見渡す。
シュカの術だ……
「ぎりぎりセーフ」
指をはじいたままのポーズでシュカがそう言う。
本当に危なかった、もう一人のシュカが教えてくれなかったらまた同じ術をかけられたかもしれないところだった。
夢の中のシュカはよろよろと立ちあがり私達にこういった。
「人様の夢の中で術使うとか……ほんと規格外。世界の亀裂が大きくなってる、もうすぐこの夢は壊れる。だから、二人は早く夢の外にでな」
そう言われる。亀裂は大きくなり、パラパラと崩れているのがわかる。
「ところでなんで、夢の中の俺は、術が効いてないの?」
妖怪のシュカが疑問をぶつける。
「まくら返しはお前より格下の妖怪だから術が効いた。だけどお前に勝ったしずくの夢からできている俺にはあんたの術は効かないし。しずくごと認識できなくなる術を使ったせいで俺のこともあいつは見えないみたいだ。だから、今度は俺のだけ術を解けぬらりひょん。まぁ、どれだけできるかわかんないけど。二人が夢の外に出るまでの時間稼ぎになるでしょ」
そういって、夢の中のシュカは笑いながらストレッチを始める。
「なるほど、まくら返しが身体から出ちゃえば。行動や考え方は
「二人が夢から出るまでせいぜい逃げ回ってみせるよ」
「ちょっと待って、それじゃぁ、夢の中のシュカはどうなるの?」
シュカ同士でどんどん話しが進んでいく……けれど。それって、私たちが脱出した後。夢の中のシュカはどうなってしまうのとつい疑問を投げかけた。
「俺は、どうせ夢の外には出れない。だって、俺はしずくの夢だから。夢はもう覚めるんだよ。しずくさえ生きていれば、またいつか夢で会えるから。そのときまで、バイバイ」
そういったと同時に、シュカが指をはじいた。
「見え申した……見え申した……忌々しい。しずくはどこだ?」
「さーね、鬼さんこちら」
シュカは私達に手を振って走って行っていき、その後をずるずると枕を引きずりながらまくら返しが続く。
ピシピシっと嫌な音を立てて、景色にはいった亀裂が大きくなる。
「帰ろう、しずく」
シュカが私の手をぎゅっと握った。
「うん。ところでどうやって?」
「だから、出たい目よ覚めろって願えばいいってじいさんが……」
ギュッと目を閉じて出たい、目よ覚めろと思ってから目を開けるけれど。
私もシュカ目が覚めなかった。
「ねぇ、シュカ出れないのって私だけ?」
「確か、じいさんが心が安定しなくなったら外に出れなくなるからとか言っていたかも」
二人でどうしようと今更ながら焦り出す。
その時だ。
『おーい、僕だ。眠っている二人に話しかけているのだが聞こえるか?』
風月の声だ!
「聞こえてるよ。ねぇ、俺らさっきからずっと夢から出るって念じてるんだけど、ちっとも戻れないんだけど! どういうこと!」
シュカが教えた方法で出れないことを抗議すると、私とシュカの頭に割れんばかりのお説教が振ってきた。
『ばっかもーん、お前がしずくの夢の中で術を使い認識させないっていう荒技つかったから夢の世界が不安定さが加速したに決まっとるじゃろ』
「だって、そうしないとよけきれなかったんだもん。他になにか方法あったの? っていうか、そっちから声送れるならもっと早い段階でしてよ」
『しずくが、夢から覚める気になったから声が送れたんじゃ。自分の実力不足で術に頼ったことをわしに責められても困る』
「それより、何とかして。せっかくしずくが起きる気になったのに夢から出れないのは困る」
『とりあえず、学校の屋上へ上れ天からクモの糸のようになんとかできんか考えてみるから待っておれ』
「まって、それ最後糸切れる物語だよね。縁起でもない例え出すのやめてよじいさん。よし、屋上へ向かうよ」
シュカがそう言って私の手を引っ張る。
「うん」
さっきおりた13階段を急いで上って私たちは屋上に出た。
空を見上げると、天からロープが垂れてきたけれど、明らかに長さが足りなくて屋上まで全然届かない。
「これじゃ届かないわ」
『わしらだって、これでも必死に縄を伸ばしとる。人の夢の中で何かを作り維持するのは流石のわしでも難しいんじゃ』
そんなやりとりをしていると、とうとう、ヒビが入っていた世界がパラパラと崩れ始める。
その時だ。
「世界が崩れる……逃げ申す……逃げ申す……あんなところにちょうどいい縄が下がってきておる、あれに捕まり逃げ申す……逃げ申す……」
世界が崩れてきたことで、シュカと鬼ごっこをしている枕返しが異変に気がついたようだ。
しかも、私達がこの世界から逃げるために出してもらっているロープに気がついたようで、明らかにこちらに向かってこようとしている。
その身体に、夢の中のシュカが体当たりしてしがみつく。
「離せ……離せ……夢ごと消えるのはごめんじゃ……ごめんじゃ……」
枕で殴られても、蹴られはじかれても、シュカは立ちあがって何度も枕返しにしがみつく。
私達を逃がすために……
何度目かの蹴りでとうとう夢の中のシュカは校庭に倒れこんだまま動けなくなってしまう。
そのとたん、まくら返しが走ってくる。
校舎の中を通ってここまで来るのかと思いきや、このほうが早いと言わんばかりに校舎の壁をよじ登って。
「ひぃ……」
思わずその光景に息をのんだ。
「クソ、ロープが下がってくるのが遅いこのままだと、ここで鉢合わせる」
その時だった。
「し、しし、しずくちゃん。しゅ、シュカ君……私に捕まって。私がしずくちゃんの夢に入れるくらい世界が崩れかけてるから早く」
ちなみちゃんの声だった。
天から、すごい速さでちなみちゃんの首が伸びてこちらにやってきたのだ。
涙目で早く早くとせかすちなみちゃんの首に私達はしがみついた。
そのとたん、ちなみちゃんの伸びていた首が凄い速さで戻って行く。
ちなみちゃんの首にしがみついて上に戻る途中で、学校の一部が大きく崩落した。
「あっ、学校が」
「やばい、夢が本格的に崩れかけてる。ちなみがんばれ! 俺たちの運命はお前の首にかかってる」
シュカがちなみちゃんにそう言う。
その時、私は崩れる世界の校庭で倒れている夢の中のシュカを見ていた。
シュカはよろよろと立ちあがると、私のほうを見上げた、そしてやってやったぜと言わんばかりに親指を立てた。
ガラガラパラパラと崩れゆく夢の世界。
学校はあっという間にがれきになって、街並みもがれきになった。
その中で、最後まで校庭にシュカがきれいに残る。
「も、もっ、もうすぐ外に出ます」
ちなみちゃんがそういうと同時に、夢の中のシュカのたてた親指からパラパラとゆっくり崩れ始める。
「嫌だ……嫌だ……逃げ申す……逃げ申す……」
何とか上から垂れているロープにまくら返しが何とかつかまろうと瓦礫をつみあげあがく。
「させるかよ」
そういってシュカがパチンっと指をはじく。
「縄が、消え申した……消え申した……縄が、縄が、縄がぁぁぁぁあああ」
「夢から出ます、目を閉じて」
ちなみちゃんにそう言われて私は目を閉じる。
さようなら、人間のシュカ。
私のわがままのせいで産まれたのに、最後までちゃんとシュカとして私を守ってくれてありがとう。
いつかまた、私の夢の中で会いに来て。
◆◇◆◇
目が覚めたら、もう外は夕方で、ちょうど18時を告げる音楽が流れていた。
『間に合ったか!』
そういって、白いキツネが私の視界に入ってきた。
「うぅぅ、首が痛いです」
そういって、ちなみちゃんが首を押さえて起き上がった。
「やっぱ、こっちの世界がいいわ」
よっと手で反動をつけるとシュカが勢いよく起き上がった。
「私、ちゃんと帰ってこれたの? えっと、風月はキツネよね?」
「ふぅ、大サービスというやつだぞ。いかにも」
そういうと、男の子の姿からクルンっと一回転して風月は真っ白いキツネに早変わりする。
「ちなみちゃんはろくろっ首」
「はっ、はい」
そういって、ちなみちゃんは60cmほど首をのばして見せた。
「わっ!……それで、シュカはぬらりひょん?」
「そうだよといっても、しずくには術を使っても効かないんで俺だけ証明しようがないんだけど」
シュカはそういって頬を膨らませた後、私にこう言った。
「おはよう、しずく」と。
『いや、もう術は効くぞ』
「え? なんで? 俺妖怪と勝負まだしてないんだけど」
『お前さん、あちらの世界から出るときに、わしが必死に作っていたロープにをまくら返しに認識させないようにしたじゃろ。その結果、あいつはしずくの夢の世界から出れず、夢の崩壊とともに消滅した。お前が倒したんだぬらりひょん。だから格が上がっている。あれほどの妖怪を倒したのじゃから、今ならお前さんの術はしずくに通るはずだ』
「あーーーーーー!」
ちなみちゃんがそうやって声をあげた。
そうか、もうシュカは私より格上になっちゃったんだ。
「た、た、た大変。もう18時過ぎてます。わ、わ私のお母さん凄く怖くて。私先帰ります!!」
今回一番いいところをもっていったちなみちゃんが慌ててランドセルを担いで走って行った。
「俺らも帰るわ。あーーーっと、見守り稲荷の神様。このたびは、妖怪ぬらりひょんの願いに応え、そのお力を貸していただき誠にありがとうございました」
シュカはそういって、地面に土下座して額を地面につけた。
私も慌てて、シュカにならって同じように土下座した。
『うむ、よきかな。よきかな。それにしても今回は骨が折れた。神通力もだいぶ使ってしまった。皆も社に帰るぞ』
そういうと、すぐに気配がなくなった。
顔を上げると、そこには見守り稲荷の社があるだけだった。
「……シュカ」
私は声をかけた。
「さて、ミチの今日のご飯なんだろう、家に帰ろう~」
シュカは何事もなかったかのように、いつものようにふるまう。
だから、私もあんなことがあったけれど、いつものようにシュカと一緒に家に帰った。
私達は帰りが遅くなったことを、母に怒られた。
そして、ご飯を一緒に食べて、それぞれお風呂に入って、テレビをみて、いつものように布団に横になった。
疲れていたのか、あんな体験をしたからか、私はすぐに眠くなって寝てしまった。
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