夢と現実のはざま
第26話 望んだ世界
「おい、おい。起きてってば」
ゆすられて私は目覚めた。
そこは、外ではなくて教室だった。
あれ、私やっぱり教室で寝ちゃってて、おんぶしてもらったあたりから夢だった?
「なーに変な顔してんの? 早く帰ろうよ遅くなるとミチ心配するよ」
「えっ、そんなに私寝ていた? ごめん。カッパのところ行くの駄目にしちゃったね」
あー私の馬鹿。こういうことしたら駄目だって思っていたのに。でも、少し眠ったせいか頭はすっきりしてる。
シュカが何も言わないから、シュカの顔をみると、目を見開いてこちらを見ていた。
「……っぷ。カッパ……カッパってあんた。どんな夢見てんだよ。頭の中ファンタジーかよ」
そういって、シュカが腹を抱えて笑いだしたのだ。
「え?」
意味がわからなくて私は固まる。
「もう、ほんと寝過ぎでしょ。カッパとかいるわけないからね。いつまで夢引きずってんの。ほら帰るよ」
そういってシュカは私に手を差し出した。
私はその手に自分の手を重ねる。
帰り道シュカはカッパカッパといってクスクスと笑う。
何でそこまで笑うの?
「シュカこそ何言ってるのよ?」
「カッパはいるって? いや、ほんと夢引きずりすぎ。カッパとかいないでしょ」
「いやいや、忘れちゃったの? カッパはいるでしょ」
なんで忘れてるのよと思いつつもシュカの手を引いて、橋の下についたけれど。そこにはあき缶は落ちていてもカッパはいなかった。
「もうどんだけリアルな夢見てんの」
「ちょっとまって、あっ、ちなみちゃん。ほら、ろくろっ首の!」
「こんどはろくろっ首? なに昨日怖い話のテレビでも見てたの? ちなみちゃんってあのクラス違うけど、たまに遊ぶ子だよね。ろくろっ首って設定になったの? なら俺はなんだったんだよ」
「シュカは……ぬらりひょんだよね?」
「覚えてたんだ……そうだよ俺はぬらりひょん……」
シュカがまじめな顔でそういって、私はホッとする。私がおかしくなったのかと思った。
だけど、シュカは私の様子を見て、焦ったように話しだす。
「いやいや、何マジで信じてるの。隣の席の男の子はぬらりひょんとかそんなわけないじゃん。同級生なんですけど……俺との思い出を思い出してみ? どこにぬらりひょんらしさあった? 人を勝手に妖怪にしないでよ」
そう言われて、考えてみると。あれ、そうだよね。妖怪だって考えるほうがおかしいって思いだす。
「その顔はもう、自分がおかしいことを言った自覚あったでしょ。もう妖怪なんているわけないじゃん。早く帰るよミチのご飯待ってるんでしょ。いいなぁ、俺もしずくん家の子になろっかな」
そういってニッと笑いかけられた。
そうだよ、今までのことのほうがおかしかったんじゃないかな。
妖怪なんかいるわけないんだよ、私長い夢を見てたのかも知れない。
シュカは私の家の近所の男の子で、今は席が隣になって急に仲良くなって……
妖怪じゃなくて人間だから、シュカとの勝負はもうしなくていいし。
私がシュカを見えなくなることも、シュカを認識できなくなることも考えなくていい。
だってシュカは普通の人間の男の子なんだから。
だから、大丈夫ずっと一緒にいようと思えばいれる。
もう彼との別れが来るんじゃないかって悩まなくていいんだ。
あっちが全部夢で、こっちが本物だったんだ。
ほっとして、ポロっと涙がこぼれた。
「ちょっ、なんで泣いてるの? どうした? お腹すいたの? ほら、早く帰ろうって言ったじゃん」
「もう、シュカ本当に相変わらずデリカシーない。よかった、あっちが夢で良かった。もうシュカに会えなくなるかもしれないって思ったら凄く怖かった」
夢の中ではシュカには絶対言えないことだった。
夢の中のシュカは私が危ない目にあわないことのほうが大事だとはっきりと言っただろうから。
私がいるせいで、シュカは私の傍にいなければいけない妖怪だったから。
だから、絶対言えなかった。
人間の私だけが、シュカのことが見えなくなること、シュカに会えなくなること、シュカを忘れてしまうことが怖くて仕方なかったことを。
「まったく何を泣いてんの」
そういいながらシュカは胸を貸してくれて、私はシュカの肩口に顔をうずめて泣いた。
安堵した。
あっちが夢で良かった。
あっちが夢で良かったと。
「はいはい、俺は妖怪ぬらりひょんじゃなくて残念ながら人間の普通の男の子なんでいなくなったりしないんで」
そういってシュカが私の背中をぽんぽんっと叩いてあやしてくれる。
「うん、うん」
私はそれに返事をして、たくさん泣いた。
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