第23話 日常とカッパ

「あーしずく、一個だけ俺と約束」

 帰り道シュカは珍しく真剣な顔で私にそう言った。

「うん、いいけど何?」

「俺のことちゃんと信じて。危ない目にあっても、まぁ、今日のはギリッギリだったけど。ちゃんと助けに行くから」

「うん」

 私はそういってシュカの手をギュっと握り返した。



「「ただいま」」

 玄関で私たちがそう言うと、お母さんのおかえりが聞こえる。

「うーん、この匂いは今日は煮魚か?」

 シュカが匂いで今日の晩ご飯当てクイズを始める。

「ご飯まで時間あるから、手洗いうがいしたら少しでも宿題しておきなさいよ~」

「はーい」

 お母さんにそう答えて私が宿題する間、シュカは隣でタブレッドを触ってごろごろする。




「ちょっと、姉ちゃんたちリビングで宿題しないでよ。テレビ見たいのに~」

「つけていいよ」

「ならいいけどね」

 そういってついたテレビを見ながら宿題をする、ここ最近の日課みたくなっている。

 ご飯食べて、お風呂に入れば、宿題をして、それが終われば、部屋で妖怪はどこにいるかとかシュカといろんなことを話す。



 そんなことしていると、今日怖い目にあったばかりだと言うのに、頭にやっぱりよぎってしまう。

 ずっとこの日々が続いたらいいのになって。



◆◇◆◇



 放課後あんなことがあったけど、私たちは妖怪探しに繰り出す。

 ちなみちゃんが、このまま私が力を持っていたら凄く危ないと思うと言ってくれて風月を連れて来てくれたので今日は4人だ。

 依然と同じメンバーで今度こそ、水辺にいないか探すことになった。

 ちなみちゃんは、何度も何度も怖いよねごめんねってことを、つっかえながらも私に謝ってくれた。

 私のことを考えたら、早く力を手放したほうがいいと思って言ってくれてることがわかる。



 今日まで1匹も見つかってないんだから見つからないと思っていたのに。

「あっあっあれ、いました!」

 ちなみちゃんはいち早く橋の下に何かを見つけたようだ。

 見つかってよかったはずなのに複雑な気分になる。


「んじゃ、俺が走ってみて……」

「「ダメです(だ)」」

 走って見てこようとするシュカの肩を二人が止めた。

「お前自分が妖怪のどのクラスにいるかもう少し自覚しろ。お前みたいなのがいきなり目の前に現れたらせっかく戻ってきたというのに、また逃げるかもしれないだろ……町に明らかにお前の他にやばいのがいるのがわかった今、また何カ月も妖怪を見つけられないことは避けないといけない」

 確かに。

「……えっと、ここは誰がいくの?」

 私がそうきくと風月が答える。

「ろくろっ首だな。一番無害そうだ」

「ががが、がんばります」

 ちなみちゃんがぎくしゃくと土手を下りて橋の下に言ってしまった。




 しばらくすると戻ってきて。

「は、は、話しをとりあえず聞いてくれるそうです」

 とほっとしたように言った。



 橋の下にいたのは、1mくらいで全身緑で、頭にはお皿、黄色のくちばし……速く泳げるように特化した水かきのついた手足、背中には甲羅これって……

「こ、ここをねぐらにしているカッパさんです」

 私でも聞いたことがあるめちゃくちゃメジャーな妖怪だ! 学校の帰り道こんな身近なところにいたのーーーー! って驚いてしまう。

「初めまして、この辺をねぐらにしております。妖怪でいうところのカッパでございます。本日はどのような……」

 ぺこりと頭を下げた後、落ち着かないように、何度もハンカチを川に浸してお皿を拭きながら言うのが可愛い。

「あーごめんね。ちょっと俺勝負してくれる妖怪を探しててさあ」

「ひぃいい、どうかお許しくださいませ」

 シュカにそう言われると途端に涙目になってガタガタとカッパは震えだす。

「戦ってってわけじゃなくてさ。かっぱの勝負って何?」

「かっぱ……のでございますか? 私を滅するほうではなく?」

「そうそう」

「カッパは泳ぎで勝負をつけます。各々縄張りがございまして、縄張りの端から端まで泳ぎ切り先についたほうが勝ちでございます」

 これは私も知っているわ。カッパって泳ぎが得意な妖怪だからかな。



 それを聞くとシュカは難しい顔になる。

「すみません、泳ぎとかですみません」

 その顔をみてとたんにカッパが焦り出す。

「あー違う違う。泳ぐのか……」

「ふむ、せっかく出会えた妖怪だがこれは無理そうだな。カッパはどの個体も人よりはるかに速く泳ぐ。ぬらりひょんが水に住む個体ならともかく、お前は陸にすむ個体だから、競っても到底勝ち目はあるまい。振り出しに戻るか……カッパごくろうであった」

 偉そうに風月がそういうと、カッパは風月にもぺこぺこ頭を下げた。

 勝負ができなくて、私はホッとした。

 でもそれを悟られないように必死に振舞った。



「うーん、とりあえず妖怪は戻りだしてきたみたいだし他のところを探しますか~」

 シュカがそういうとちなみちゃんが珍しく待ったをかける。

「あっ、あ、あの。私達妖怪を探していて、知り合いがいましたら声をかけてもらえませんか?」

「あぁ、水辺に住んでいるやつにならかまわないけれど。一つだけ約束してほしい。我々を倒すつもりはないと」

 ちなみちゃんの交渉によって、なんと、カッパは他の水辺の妖怪に声をかけて集めてくれることになってしまった。


 トンネルの下も探したけれど、ここにはまだ帰ってきている妖怪はいなかった。

 ただ、このままだと妖怪が妖怪に声をかけ集めていつかシュカと勝負できる妖怪があらわれてシュカが勝つ日が来るのでは……と頭によぎる。



 いや、駄目駄目こんなことを考えたら。

 考えないようにするはずだったでしょ。

「ここはカラ振りか、でもまぁこの分だと同じように交渉をすれば、いちいち探さなくても知り合いをたどって勝負できそう。そう言うの全然思いつかなかった、ちなみ交渉ありがとう」

 シュカはそう言って、ちなみちゃんに軽く頭を下げた。

 それをみて心がずきっと痛んだ。



 そんなこと悟られないために、頑張っているのに、ちなみちゃんがそう言わなければ……って一瞬思ったことをごまかすために私は頭をぼりぼりとかいた。

 私の髪がかきあげられて覗いたうなじに見たこともない紋が刻まれていたことにこのとき私も、他の3人も気づけていなかった。




『広がった心の隙間……見つけ申した……見つけ申した』

 私たちが立ち去った後に響いたその声は誰に聞かれることもなく消えた。

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