第22話 受け入れる

 ちなみちゃんのおびえた様子で、私もさっきの不気味な妖怪を思い出す。

 それにしても、本当によく見つからなかったものだ……

「どれくらいの時間かわからないけれど、かなりうろうろしてた。見つかったのがシュカが来るのと同時でよかった」

「しずくが見つからなかったのは、しずくが術を使ったから。その術のせいで俺がしずくを見つけられなくてどうしようかって思ってたけれど、結果的には術のおかげでぎりぎりまで他の妖怪に見つからずに済んだんだしほっとした。俺が名前を呼んでしずくも俺に見つけてもらいたいと思ったからおそらく術がそのとき解けたんだと思う。危機一髪だったよね」

 終わりよければすべてよしと、シュカがパンっと一本締めしたけれど、待って……

「術? 私が?」



「あーやっぱ自覚なかった? なんで俺が追ってこなかったと思う?」

「なんでって……わかんない」

 てっきり、私がめんどい態度を取ったからと思ったんだけれど。それは言えなかった。

「景色にまぎれて俺の前で消えた。だから追えなかったの。学校までついて来て、寝食共にしてるんだよ。追いかけないわけないじゃん。追いかけられなかったの」

「じゃぁ、どうしてここが?」

「そりゃ……勘?」




「さらっと嘘をつくな、この嘘つき妖怪めが。僕が代わりに教えてやろう。お前が術を使って消えたから探すために助けてくれとこいつは私の主様に泣きついたのだ。主様は寛大なお方だから、妖怪の頼みであっても、人間の童を救うためだと柔軟に対応してくれたから今のお前はここにいるのだ。感謝の気持ちがあるならば、後日菓子でもなんでもよい。何か供物を捧げ目に見える形で感謝を示すことだな」

 フンっと風月は偉そうにそう言った。

「もう、なんでそういうの言うわけ」

 シュカが風月にばらされてばつの悪い顔になる。

「血相を変えて僕にすら主様に取り次げと頭を下げたくせに。のど元過ぎればとやらだな……さて、人間の童……いや、確か名はしずくと言ったな。怖い思いをしたことだろ。今だからこそ念押しをしておく、血迷うな、お前は人間だ。不相応な力を持てばこうなるのは通り。このろくろっ首みたいな妖怪だけではないのだ。その力を持つ間は、ぬらりひょんから片時も離れず、時が来たら、ちゃんと負けろわかったな」

 風月はまっすぐと私を見つめて、そう念押しした。

 私がシュカを見えなくなるのが嫌でも、先伸ばしするなと釘を刺されたのだ。



「あっあっ……あの、こここここから離れませんか? まだ、まがまがしい感じがして」

 二の腕をさすりながらちなみちゃんがそう言った。

「それもそうだな、ろくろっ首。僕は主様に報告せねばならないからこれにて学校に戻りたいところだが。先ほどのやつが辺りにいるのに、出くわしたとなれば寝覚めが悪い。ろくろっ首は僕が家まで送る。お前たちもすぐ家に帰ったほうがいい」

「うん。わかった」

 風月にそう返事をして、私たちはそれぞれ帰路につくこととなった。



さて、帰ろう。そう思った時、シュカが私に手を差し出してきた。

「怖かったんでしょ、急いで帰ろう」

 そう言われて、私はシュカの手を握り返した。

「うん」




「俺さ、自分の術ってどんなふうにかかるのか初めて見たわ。そう言えば。こればっかりはさwikiwikiペディアにも載ってなくてさ」

 そういえば、私はどうやら術を使ったようだった。

 にしても、私はシュカに勝ってしまったから術を結局使われたことがないことに今気がついた。

「私も、術を使われたらどんなふうになるのか見たことないんだけど。どんな感じだった。こう霧見たいにもわもわもわって感じ?」

「うーん、なんて言うのかな。しずくっていうガラスにヒビが沢山入っていって、それがパラパラと砕け散って、景色に溶け込んでいく感じ?」

 頭の中で想像してみるけれど、私にヒビとかホラーじゃん。




「それグロくない?」

「いや、別にグロさは感じなかったけど。それ俺が妖怪だからかな……? 人間ともしかしたら感性ってのが違うのかも」

 シュカが真剣に悩みだす。

「私にヒビが入って砕けちゃう感じでしょ……やっぱりグロいきがする」

「うーん、きれいで儚い感じがしたけどな俺は。まぁ、しずくはそのうち見れるよ。こりゃもう、ロケーションもこだわっちゃって最高な景色の下,

俺は溶け込む。あまりのきれいさに言葉もないくらいにこうさ」

 そうやっていろいろ話してくれるけれど。

 私がそれを見るときは、シュカとお別れするときじゃんって喉元まで出かかって言うのを辞めた。



 怖い思いをしたからじゃない。

 そんな私といたら、シュカが本来合わない危ない目にあうんじゃないかと思ったからだ。

 別れを受け入れないといけない。

 だから、今は思いっきりシュカと楽しもうそう思ったのだ。





「隙間……隙間……心の隙間」

 その不気味な声は誰の耳にも届かなかった。




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