第14話 結界
シュカが話さないから、風月はさらにまじめな顔で話を続けた。
「この学校の4隅には見守り稲荷の社が建っているのは知っているだろう。あれは、簡易な結界の役割を果たしている。
だから、この娘のような弱い妖怪は中に入れるが。それより強い妖怪は結界がはじいて敷地内に入れない。敷地内にはいれるなら、お前ぐらいの強さがないと結界を平然と越えることはできん。
お前が連日学校でその娘とうろついているのは知っている。社に呼んだのもそのためだ。お前その娘と何をたくらんでいる」
そう言う風月の顔には、先ほどまでの軟膏のこと言いつけられたらどうしようとうろたえる姿はどこにもなかった。
まっすぐとシュカを見つめ、事実を知ろうとしていた。
「俺としずくは学校の七不思議を解いていた」
まじめな顔でシュカはそう答えた。
すると、まじめな顔をしていた風月のほうがポカーンとした表情になる。
「妖怪のお前が、何を小学生のようなことをしているんだ」
信じられないと言わんばかりに口元まで抑えるしまつ。
「俺らにも理由があったんだよ」
気まずそうに、シュカはみつあみをくるくると手でいじりながらそう話す。
「理由? 七不思議を解き明かしてどうする」
「ざこ妖怪を探してたんだ」
「ちょっと、待て」
そういうと風月は眉間に手を当てて考え込む。
「お前まさか……
神妙な顔で風月はシュカに確認をとるが、シュカは自分の顔の前で手をぶんぶんと振りながら否定した。
「百鬼夜行なんかするわけないだろ」
「ちょっとまって、二人とも百鬼夜行って何?」
わからない言葉が出てきて思わず二人に質問してしまう。
「あーもう、タブレットないとめんどいな。妖怪が100匹くらい集まってこう……パレードする的な感じ?」
「なんていう説明をしているんだお前は。百鬼夜行は妖怪が100匹以上集まって、練り歩くことだ」
シュカがザックリと説明したのを遮った割に、大体言っていること同じと思ってしまう。
「俺の説明と一緒じゃん」
私が思ったことをシュカが風月にツッコミをいれた。
「目的がパレードと百鬼夜行とでは違うだろう。パレードは素敵ねって眺めるもの。百鬼夜行はたった一匹の妖怪の下にそれほど多くの妖怪がしたがっているのだぞと見せびらかし力を誇示する儀式。パレードとか、楽しい感じにするんじゃない。最近の妖怪ときたらまったく。で、百鬼夜行ではないとすれば何が目的だ」
怒りながら風月はそう説明してくれた。
たった一匹の妖怪の下に他の妖怪がしたがう……ぬらりひょんのページを見た時に妖怪の総大将って書かれていたことを私は思い出した。
なるほど、百鬼夜行とは総大将の強さを知らしめる何かなのかもしれない。
「俺は……雑魚妖怪をちょっと倒したいだけだし」
「なぜ? まだガキとはいえ『ぬらりひょん』がなぜ雑魚妖怪まで倒して力を得ようとする。返答しだいによっては主様が黙っていないぞ」
「…………っから」
下をむいて、手をいじいじしながらシュカがぼそぼそと話す。
もしかして、人間の私に負けたということは、凄くはずかしくて屈辱的なことなのかもしれない。
「なんだ声が小さくて聞こえないぞ」
「……まっ……から……」
「はっきり言え!」
「負けたからだよ! 俺はもうここら一体のボスじゃないの!」
はーはーっと肩で息をしてシュカは一気に言い放った。
「なっなっなっ、お前が敗れただと!!! いったい誰に、どんな恐ろしい妖怪だ。ぬらりひょんの力なんぞ得られてはそこらの妖怪ではもう太刀打ちできんじゃないか」
シュカのチャイナ服の胸倉をつかむと、風月は詰め寄る。
「首ガクガクするのやめて」
「お前が負けたんだぞ。何を悠長なことを。誰なんだ言え。この地にとどまっているということは、お前を使役したのか?」
風月がそういうとシュカが私の方向を指さす。
「なんだ、しずくという童しかいないぞ」
風月が私をちらっと見た後私の後ろに何かあるのではとやけにじろじろみつめる。
「そうだよ、俺は負けたの。しずくっていう童に」
「何を言って……そうだ、お前そうやってまた僕を騙しからかうつもりだろう。そうはいかないぞ。しずくは人間だろう。なぜお前が負けることがある」
「もう何度も言わせないでよ。負けたの。だからしずくに俺の術はもう効かない。ほら」
そういってシュカはパチンっと指を鳴らす。
すると、先ほどと同じ場所にシュカは立っているのに、風月はシュカを探すためにあたりを見渡す。
「しずく、俺のこと触って見つけたって言って。風月ならそれをすれば俺のことを認識できると思うし」
シュカがそういうから、私は恐る恐るシュカに近づいて、肩にトンっと触れてこういった。
「見つけた」
そのとたんだ、風月いわく術が破られ、パラパラと背景が崩れるかのようにその場にシュカが現れたそうだ。
「変わった格好をして、変なぬらりひょんだと思えば、人間のそれも術も学んでないような童に負けるだなんて前代未聞だぞ。こんな力をもたぬ童がお前に勝って力を得たとなれば、格好の的じゃないか」
と叫んだ。
「そうだ。だから名をやり、こうやって隣にいて保護してるし。雑魚妖怪を倒して妖怪の格を上げてしずくに勝負を挑んで、次は俺が勝つ。そうすれば、しずくが俺に勝ったことで得た力はなくなりしずくは元の生活に戻れる。とりあえず、そのろくろっ首でいいから勝ってさっさと決着をつけて、しずくを元の人間の世界に戻したいだけなんだよ。後、何を着たっていいだろ。お前だって好きなの着ればいいじゃんか」
取っ組み合いに発展しそうだったので思わず仲裁した。
「ちょっと落ち着いて喧嘩してる場合じゃないでしょ。ちなみちゃんはどうしてああなったの。私がシュカの術をみやぶったことと関係があるの?」
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