第13話 封印
残り1mまでちなみちゃんを引きづけてキツネが投げた札はちなみちゃんの額にめがけてまっすぐ飛んでいく。
しかし、札に気がついたちなみちゃんは首をくねらせて札を避けようとした。
ダメだよけられちゃうと思った。その時だ。
「はい、そっち向かないの」
グキッとシュカがむりやりちなみちゃんの首を札のほうに向けたのだ。
そのおかげで札がちなみちゃんの額に張り付いた。
すると、うつろな目が閉じた。
そのとたん、宙をうねうねと漂っていた首が地面にどすりっと音を立てて落ちた。
ひょいっと、シュカはその前に器用に飛び降りると、頭が地面に落ちないように持ち上げた。
「よかった」
私はホッと胸をなでおろした。
「ふんっ僕の札なのだから、こうなるのはあたりまえだ」
「あの~今回一番身体はって頑張ったの俺だからね。それにしても首長いままなんだけど……これ駄目じゃない?」
確かに、ちなみちゃんは動かなくなったけれど、首が屋上ににゅるにゅると伸びたままだ。
「こんなものはだな。こうだ」
キツネはそういうと、ちなみちゃんの身体に触れて何かブツブツとやり始める。
すると、ちなみちゃんの首はするすると、まるで掃除機のコンセントを収納するボタンを押されたときのように短くなっていく。
あっというまに、長い首は元通りになった。
「とりあえず人が来そうだから、場所をかえるよ」
そうってシュカが指をはじいた。
ちなみちゃんをキツネがなんで僕がといいながらもおんぶしてくれたので。人のあまりこない第二校舎の音楽室に連れてきた。
「ほら、妖怪ありがたく受け取るがいい」
キツネはちなみちゃんを床に下ろすとそう言って、小さな軟膏を取り出した。
「なにこれ?」
シュカは怪訝な顔で差し出された物を見つめた。
「あ……主様は優しいお方だ。妖怪のお前にも情けをかけられている。神域に長くとどまればいくら、ぬらりひょんといえども身体に害をなす。あれからまだ日も経っていないのに術を何度も使い身体をあれほど動かしたのだ。平気そうなフリをしているだけで、無理をしているのが神の使いである僕にはわかるからな」
キツネは偉そうにそう言う。
シュカは受け取るとじろじろと眺める。
「あのさ、キツネ。これ俺にくれたってことでいいの?」
「キツネではない、僕には風月という名がある。先ほどは緊急事態ゆえ非常識な呼び方をしていても大人の対応をしたが」
白いキツネはこんこんと説教を始める。
「これさ、もっと早く俺に渡すように託されたんじゃないの?」
シュカがそう言うと、耳としっぽが現れて耳はピーンと、尻尾はぼふっと膨れてピーンとなった。
「ぼ……僕にだって、いろいろ事情が……あって、その」
「じいさんにお礼しにいってもいい?」
じーっとシュカがキツネ風月の目を見てそういうと。
「主様には僕からお前の分もお礼をきちんとしておく」
しどろもどろになりながら、風月はそう言った。
それだけで、なんとなーく風月が軟膏を渡すように託されたけれど、シュカのところにまっすぐ持って行ってやるのが癪だからと今日まで頼まれたのに持ってこなかったのかなってことがわかってしまってクスっと笑ってしまう。
「シュカ、わかってて虐めているでしょ。もうおしまい。ところちなみちゃん、私に何か話したいことがあったみたいだったけど。どうして突然あんなことに……」
そう、ちなみちゃんのほうから私に話しかけてくれたのだ。
だから、何か私に話しかける用事があったはずだ。
でも、ちなみちゃんは、途中で目がもうろうとして首が伸びて話しかけても通じなくなっちゃったのだ。
「そんなこともわからないのかお前たちは。しかたあるまい、僕が教えてやろう。それは、ろくろっ首が弱い妖怪だからだ」
いつの間にか制服姿にもどったキツネがフンッと偉そうに咳払いをしてはっきりとそう言った。
首は伸びるし、噛みつこうと攻撃してくるし、かなり強かったと思うのだけれど、あれで弱い妖怪なの?
「いや、さっき二人でかなり苦戦していたじゃない」
どっちが頭を捕まえるかでもめていたし、シュカも頭を捕まえるほうは危ないと言っていたと思う。
「あれは、ちなみちゃんを殺さず止めることが目的だったからだよ。倒すのは、首が伸びて無防備になった身体を狙えばいいから簡単なの」
シュカにそう言われて思い出した。
「確かに首があっという間に伸びたけれど、身体はその場に残っていた」
シュカはちなみちゃんの身体を残しておけないとおんぶして屋上に向かったくらいだ。
「でしょ~。身体を隠しておいても、首の根元を追っていけば身体のところにたどり着けちゃうから、ろくろ首は弱いの。悔しいけど、なんで急にこうなったのか俺にはわかんないんだよね……」
シュカにはやっぱりわからないらしく、教えてもらうのが悔しいけれど理由は知りたいようで不機嫌な表情でキツネをみた。
「ぬらりひょんには弱い妖怪の
ふうっとため息をつくとやれやれと言わんばかりに風月はそう言った。
「しずく、俺ちょーっとじいさんに軟膏のお礼言ってくる」
ニコッとシュカが振り返って私にそう言うと、風月の態度は慌ててシュカを止めた。
「話す、話すから。まったくなんて妖怪だ、神の使いの私を脅すとは……。ただ、一つ聞きたい。先日は聞けなかったことだ。とても大事なことなのだ。ぬらりひょんよ、お前はなぜこの娘に名をやり連日学校にくるのだ?」
「それはキツネのアンタには関係ないでしょ」
シュカはそういってそっぽをむいた。
「いや、このろくろっ首の娘にも関係深いことだ。聞かないわけにはいかない。このしずくという娘にお前が名をやらねばならない事態が起こったのではないか? ちょうどお前が学校にその娘と出入りするようになってくらいだ。稲荷の結界を越えて学校の敷地に何かが入ったと思われるのだ」
風月はまじめな顔で私とシュカの顔を見つめてそう聞いてきた。
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