第10話 二人目の妖怪

「凄かったね、絶対さっきの学校の敷地じゃなかったよ!?」

 初めて経験する明らかな不思議な体験に私は大興奮だった。

「そーね、よかったね」

 テンションの高い私と違って、シュカはだるそうにそう答える。

 そーねって、不思議な体験をしたというのに……妖怪のシュカにとっては珍しくないことだったのかな。

「ところで、さっきのってはなんだったの? 妖怪?」

「あれは妖怪じゃない、もーっとタチの悪いやつ。いわゆる稲荷の神様とその使いの見習い神様ってとこだね」

 そういいながらシュカは腕をぐるぐると回しているし、なんかシュカの様子が変だ。

「さっきの場所は何? 私達学校にいたけど、もしかして違うところに飛ばされたの?」

「さっきのは、おそらく神域。神様の住むエリア……まぁさっきのキツネ達の家だろうね」

 今度は首をひねりながらシュカが話す。

「あのさ、シュカ……」

「今度は何?」

「さっきから何してるの? 手をぷらぷら振ったり、腕をぐるんぐるん回したり」

「別に……あっち行くと妖怪の俺にはちょっと負担がかかるの。まぁ、ちょっとなんだけど、違和感があるの。俺わりと繊細だから」

 どことなく、歩くのもぎこちない気がする。

「ふーん……と見せかけてえい!」

 つい、悪戯心でシュカの背中を軽くパンっと叩いたつもりだった。




 なのに、シュカはあっさりと地面に崩れ落ちた。

「え? え? ちょっ、ごめんね。そんな強くしたつもりは……」

「知ってる……カッコつけてたのに、俺カッコ悪い……決めた。今日絶対一番風呂に入る!?」

「うん、入りなよ」

 シュカはよろよろと立ちあがると家に向かって歩き出した。





 その晩、私はシュカが眠りに落ちる前に話しかけた。

「ねぇ、シュカ」

「何、しずく俺眠いんだけど」

 電気を消してすぐだと言うのに、眠そうな声で答えられる。

「なんでそんなに身体中バキバキになってんの? ぬらりひょんって強い妖怪じゃないの? 半人前だから?」

「あのさぁ。俺の術知ってる?」

 シュカの術といえば、指をパチンッと鳴らす……

「指を鳴らすと、シュカがいることが気にならなくなるアレ?」

「そう、俺が認識されなくなるやつね。俺一人なら術を使って相手が有利になる場にはひきこまれないようにするの。しずくごと認識させないっていう手も使える。たださ、4匹に囲まれてた状態で。4匹が自分たちがなんでこんな風に立っているか忘れて、何かされたとき。俺が1発食らうのは平気でも。人間のしずくが一発くらったらただじゃすまないでしょ」

 それは意外な答えだった。

 確かに、ずっとシュカは私を背にしてかばってくれていた。



「あーっ、その顔。俺がそんなことするの意外って思ってるでしょ。心外なんだけど。俺って人間好きな妖怪なのよ。覚えといて。後ミチに湿布買ってきてもらうように操るけど見逃して……」

 またお母さんのことミチって呼び捨てにしているし。

 何回か注意したけれど、治す気ないでしょシュカ……

「人間が好きな妖怪なのはわかったけれど、そもそも妖怪は人間のシップで治るの?」

「やっぱそう思う? CMとかでも張ると治るってしているから俺にも効くかなぁって思ったんだけど。妖怪には無理かな?」

「張ってみないとわかんないんじゃないかな」


 次の日シュカはいつも通り一緒に学校にきたけれど、身体に不都合があるようだったから。怪談の解明は次の日に持ち越しとなった。

 湿布を貼ったけれど、妖怪のシュカにはやっぱり効かなくて、でもどうしたらいいのかシュカお得意のタブレットにも妖怪の治療は出てこなくて。

 何もできることのないまま日付が過ぎていく。





 一週間経過したときだった。



「あっあっあっ、あのあの……しず、しず……しずく……ちゃん」

 学校の廊下ですごく不審な感じで話しかけられた。

 そこにいたのは、ボブで前髪を横に流して可愛い桜のピンで止めた女の子が立っていた。

 スカートのすそをギュッと握って、私に話しかけただけで、耳まで真っ赤になっている。

 この子は確か3年生の時に1度だけ同じクラスになったことがある……ちなみちゃんだ。

「えっと、あのどうしたの?」

 特に仲いい子だったわけではないし、なぜ突然話しかけてきたのかがわからない。

「わた、わ、私。あのね、その聞きたいことがあってね……」

 ちなみちゃんの声はゴニョゴニョとなってしまって最後が聞き取れない。



 すると、スッと私の横をシュカがあの身体中バキバキはどうしたの? ってくらいスムーズに通り抜けると。ちなみちゃんの頭をぎゅっとつかんだのだ。

「えっ、ちょっと、シュカ何をしてるの!?」

「しずくやっと見つけた。コイツ人間じゃない。妖怪だ」

「あのあの、わた、私、わた、わた……」

 頭をシュカに掴まれたちなみちゃんがワタワタとし始める。

 ちなみちゃんがわたわたすることよりも、私と同級生の女の子が妖怪だと言いきられたほうに私は衝撃を受けてしまう。

 だって、私ちなみちゃんと同じクラスだったことあるよ。ウソでしょ……

「ウソでしょ。私この子と同じクラスになったこともあるけど。普通のちょっと恥ずかしがり屋の女の子なだけで妖怪なんかじゃ。それにいくら認識されなくても人の頭を両手でつかんだら駄目だよ」

「妖怪の中には、人間の中にしれっと混ざって暮らしてるやつがいるの。それがコイツ」







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