第34話
「はあ……はあ……」
「ぜえ……ぜえ……」
混乱に乗じてその場を後にした俺たちは、息を切らしながら自宅へとたどり着いた。立ち尽くしていた蝶野さんが心配ではあるが、追い詰められていた俺としては強引ではあるが助けられた。息を整えると扉を開けてリビングまでたどり着くと、糸が切れた人形のように脱力して座り込んだ。
一方の希は冷蔵庫まで歩いてジュースをグビグビ飲んでいた。
「蝶野さん大丈夫かな?」
「ひーくん! いい加減にして!」
希が声を荒げると怒った顔で俺を見上げた。声を荒げることなんて滅多にないので、驚いて反射的に正座していた。
「あのね! そういう曖昧な態度ばっか取ってるからアイツが勘違いするのよ!」
「曖昧な態度をとってるつもりないんだけどな……」
「いーや! してますぅー! だからあの人に好きの一つもいえなかったんでしょ!」
「ちょっと!? それは今関係ないでしょ?」
唐突に古傷を抉られて痛い所を突かれる。希はまだ不満たらたらみたいで頬を膨らませて地団駄を踏んでいる。長くなりそうな予感に少しげんなりしているが、俺にこの状況を打破できる方法はないわけで、黙ってお説教を聞くほかなかった。
「――――って聞いてる!?」
「もちろんです! 身に染みて反省しました!」
右から左へ受け流す状態だったので、ほぼほぼ聞いていないがあらかた言っていることは推測できるので上手くはぐらかした。言いたいことを言った希は一息つくように、隣へ座りこんだ。
「それでさっきのことなんだけど……」
「ん? さっきって?」
「あのー俺と希が付き合ってるとか何とかって……」
口にすると恥ずかしくて希の顔が見れない。あちらも同じのようで思い出すと瞬く間に顔を赤くしてもじもじしていた。言い出したのは俺だけど気まずい空気になって早速後悔してしまっている。まずい、何話していいか分からない。
「……」
「……無言にならないでよ!?」
それはこっちのセリフな気がするが、そうしてしまった要因は俺なので申し訳ない気持ちになる。
「もしかして……嫌だった?」
「えっ? 何で?」
「いやだってさ……何か嫌そうにしてたし、私みたいな色気がない女に告白されても絶対オーケーしてくれなさそうだし……」
「希っ!!」
気づいたら声を上げて両肩をがっしり掴んでいた。急なことで希は体をビクンッとさせて硬直していた。考えるより先に行動に移してしまったために、かける言葉が見つからない。そこから逃げ出したくなるような緊張感が二人の空間で張り詰めた。
いや、言う言葉は決まってるはずなのに声に出せない。先輩の影が俺の喉を絞めてるような感覚に囚われる。……いや、そんなのはいい訳だ。弱い自分が見せている幻覚にすぎない。
言えないで後悔するより言って後悔してしまいたい。だから、消えろ。弱い自分。
「好きです」
この二文字を言った瞬間、影が空気に溶けるように消えた。
「え……? 嘘だよね? ひーくん」
「嘘でこんなこと言わねーよ……」
「だって……だって……ひーくん、先輩の事が好きなんじゃ……」
「何回も言わせるなよ。俺は希が好きなんだよ……それで、返事のほうはどう?」
俺の言葉に綺麗な琥珀のような茶色の瞳が濡れ始めて、溢れるとそれは頬を伝った。希が落ち着くまで彼女の言葉を静かに待った。ようやく涙が収まり濡れた瞳を拭うと彼女は花のような笑顔をみせて言葉にしてくれた。
「喜んでっ!」
ゆなでも先輩でもなく、希と幸せになる道を選んだ。
あとがき やばいな……。色々とブレブレで本来書きたいものとは別物になっている気がします(笑) でも、完結はさせるので温かい目でみてください。
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