夢の続きは冷酷でMな先輩とうたた寝る
是宮ナト
第1話
「起きてください、起きてください、もう、夢の中ですよ」
ゆっくり瞼を開けると、雲が全くない青色百パーセントの空が視界いっぱいに広がる。次に上体をゆっくり起こし辺りを見渡す。
目の前にはおそらく何千年と生きているどでかい木に緑がすき間なく広がる草原がある。
某電化製品会社のCMで流れる背景と酷似した光景が夢の中で広がっていた。
「お目覚めですか?ひーくん」
「いい加減、そのあだ名で呼ばないでください。 後、夢を見せないでください」
夢の中で起こされ、現実でも起こされるのは正直寝た気がしないので、とてつもなく目覚めが悪い。不機嫌なことを思いっきり表に出すように、乱暴に頭を掻きむしる。
「そんな怒らないで、お姉さんが背中にハグしてあげますから」
「柔らかいものを感じられる程の大きい物は持ってないくせに……」
「人を貧乳扱いしますが、こう見えて普通よりちょっと小さいだけです」
言葉を終えると、後ろから思いっきり抱き着かれる。花のようないい匂いと柔らかいものと体温が背中越しに伝わる。現実じゃないくせに、リアルに感触を感じられるので、ドギマギとしてしまう。
「いつになったら、顔を見せてくれるんですか」
「んー? 時がきたら必ず……」
「そもそも最近みるこの夢は、あなたは何のために……」
「まだ秘密です」
言葉を遮るように、優しい声が言葉を重ねる。そして、いつも同じ答えを言葉にする。
「いつも言ってますが、ここはひーくんが思い描いたユートピアなんです」
「私を忘れているだけで、ひーくんにとっての大事なひとなんですよ私」
「……」
知りたい答えが、返ってこないことはわかっているので、そのまま反論せず黙って口を閉じた。
「はぁ~ 眠いですね このまま一緒に寝ましょうか」
数秒後、すべての力を抜いて背中に寄りかかり、右耳にふぅーと吐息をかかる。
かけられて間もなくして、視界がぐらっと揺れるくらいの眠気に襲われ、そのままゆっくり瞼を閉じた。
△
「んっ……」
瞼を上げるとそこにみえるのは、白い天井にカーテンから零れ落ちる日の光。この見覚えのある場所は、間違いなく俺の部屋。
「また、あの夢か」
霞んだ目をゴシゴシとこすりながら、上体を起こす。これで、あの夢を見るのも連続で二か月といったところだろうか。
全く寝た気がしないので、このところ疲労がたまる一方だ。だが、そんなことを言ってる場合ではない。早速、身支度をしようとベットから起き上がると、タイミングよく扉が軋んだ音を立てながらゆっくりと開いた。
「ひーくん、おはよーって……まだ、着替えてないの?」
明るい声と共に制服を着た女性が俺の部屋へと上がり込む。
「まだ、時間はあるだろ」
スマホをみると朝の七時。早くね?と目線を向けると彼女は頬を膨らませてこちらへと近づく。
「き・み・が!いつも遅すぎるから、こうやって迎えに来てるのにこういう言い方するんだ?幼馴染やめようかな?」
「ごめんなさい希様!いつもありがとうございます希様!」
金原希。俺の小学校以来の幼馴染で、小、中、高と同じ学校に通っている。恐らく俺が気兼ねなく話せる唯一の異性であり、俺の裏も表も知っている頭の上がらない相手でもある。
その証拠に神を崇めるようなポーズをとりながら、俺は目の前の女神の機嫌をとっている。その様子を見た希は膨れた頬をしぼませて、呆れたようにため息をついている。
「もー、本当にしょうがない人だよねひーくんは」
また、優しい顔に戻った希を見て、ほっと胸を撫でおろすひーくんこと
その様子を見ながら、希はボブヘアの茶髪に染まった毛先をクルクルを触っていた。なんやかんやで十五分程度で準備が終わった俺は、希と学校へとむかった。
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