第20話 ゴブリンライダー

「いいぜ、どんどん来いよ!」



 白藤先輩が強烈な回し蹴りでゴブリンを薙ぎ払う。

 顔面を蹴られたそいつは他の仲間に当たり邪魔をする形になった。



「熊井! やれ!」


「は、はい!」



 ボーリングのピンのように複数のゴブリンたちが倒れたところに熊井君が棍棒でとどめを刺していく。

 


「はぁ! たぁ!」



 雨宮さんもタイマンの中のゴブリンの体中を斬りつけ優位に進めていた。

 最終的には腕が上がらなくなったゴブリンの首筋をナイフで切って決める。



『……』


「あぁそのまま砕いて大丈夫だよ」



 こっちはマッドドールがゴブリン二体をその泥の腕で掴み締め上げていた。

 俺が杖で足をすくったり頭を叩いたりして怯んでいるところにマッドドールが回収をしていくという塩梅だった。

 

 三階はチュートリアル以来のゴブリンたちが再び登場した。

 ただし数が多い。最低でも六匹以上。今倒しきったのは十匹ぐらいいた。

 あの時にこの数といきなり対峙していたなら怪我を負うことになっていただろうが、現在は全員に武器があり、そして戦意もある。

 たった数日で成長を実感できることにこの程度じゃビクともしないようになっていた。

 男子三日会わざれば刮目して見よってやつだ。まぁこっちの面子の半分は女子だが。



「数だけはうじゃうじゃいやがるな。大したことはないが体力が削られる」


「それでもだいぶ対処法は身についてきましたね。今もこの数を無傷で捌けましたし」



 敵がいなくなったので小休止だ。

 全力で殴ったり蹴ったりするというのは誰もが思っている以上に相当に体力を使う。

 プロの格闘家だってインターバルありでも数十分しか保たないのだ。

 一応、レベルアップのおかげか装備品のおかげか気持ち普段よりは動きに補正が掛かっている気がするが、ただの高校生である俺たちはすぐに戦闘が終わったとしてもその疲れはどんどんと蓄積していっている。

 なのでこうして休みを挟みながらの数戦が限界だった。

 まぁこの中で一番動いていなくて体力が余りがちなのが俺なんだけど。



「熊井先輩、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ。大丈夫だよ」



 熊井君がぐったりと壁に背中を預けて体力回復に努めているのを雨宮さんが目ざとく見つけて声を掛けていた。

 彼は心配を掛けまいと無理やり笑顔を作ろうとするが、傍目に見ても辛そうだった。


 昨日、少ししか三階の探索ができていなかったのでやや白藤先輩が飛ばしているせいもあるかな。

 前衛にいるので当然、体力も精神力も使う位置にいるけど、ただ今更ここまで消耗し切るとも思えないんだけどなぁ。



「やせ我慢するのはいいけどよ、辛くなったら言えよ。……おい新堂その顔はなんだ?」


「いや先輩がそんな優しい言葉を掛けるなんて胸が張り裂けそうになりました。先輩も人の心があったんだなぁって」


「は? 俺はいつだって優しいだろうが」


「優しい人が胸ぐら掴みませんからぁ! ヘルプ!」



 まぁ白藤先輩は言動こそ荒っぽいが、心根はそんなに悪い人じゃないのはこの数日一緒にこうして探索していれば分かっている。

 今の言葉も自分が負担を掛けていると思っての発言だろうし。

 


「あはははは。ありがとう新堂君。元気出たよ。さぁ次行こうか」



 今のこのやり取りを見て面白かったのか熊井君が立ち上がる。

 その姿はさっきとは違って元気そうに見えた。

 今日の探索は中止を提案するかどうか迷いつつ、熊井君のその気迫に言い出せずに進むことになった。



「あー、また行き止まりか」


「最近増えて来ましたねぇ。やっぱり階層が上がるごとに広くなっていくんでしょうか?」


「たぶんそうだろうね。今のところ正解ルートだけならそこまで距離の違いは無いけど、明らかに別れ道や十字路の率は高くなってる。せめて宝箱でも置いておいてくれたらモチベーションも上がるんだけろうけどなぁ」


「ただの無駄足なだけですもんね」



 書き込んでいるマップを見せながら雨宮さんの疑問に答える。

 立ちながら書いているせいでめちゃくちゃ汚い地図なのであんまり見て欲しくないんだけどね。

 まぁ次来た時とか帰り道を迷わないようにするためのものでしかないのでこんなもんだ。



「でもそろそろ次の階層の黒いやつがあってもおかしくない範囲内かなぁと思うんだよね。熊井君もだいぶ疲れてるから次で無ければ帰りましょう」


「ですね」


「ま、しゃーねぇな」


「ご、ごめんね」



 熊井君はあれから何度かゴブリン相手にダメージを食らっていた。

 無論、彼は引き付けてくれる数が多いのである程度は仕方のないところだ。

 ただそれにしても疲労が隠せていない感じだった。


 引き返して二股のまだ行っていない方へ向かうと、遠くに次へ行ける黒いもやが見えた。

 だがその前にはまるでガーディアンのようにモンスターたちがいる。



「ゴブリンがニ体、狼がニ体。いや、ゴブリンライダーニ体かこれ」



 狼の背にゴブリンが乗り、手には木の柄で先が石でできた槍を携えていた。



『ギギギィィ!!』



 俺たちが見つけたようにあちらもこっちを視界内に収めたようで唸りを上げて突撃をしてくる。

 狼の機動性そのままに騎乗しているゴブリンの槍という注意ポイントが増えてしまった。

 やはりリーチの差は大きい。今までゴブリン相手に有利に戦えていたのは武器や体の大きさの違いが如実に差があったからだ。

 それが槍一つで解消された。



「マッドドール!」


『……』



 俺の声にマッドドールがその身を泥に沈ませ前進する。

 狼相手では必勝のテクニックを使わない手はない。



『ギギ! ギイ!』



 けれど狼の背に乗っているゴブリンたちが何やら指示をし始めた。

 あと数歩、というところで狼たちは泥を大きく迂回しマッドドールの罠地点を抜けてくる。

 明らかにゴブリンの入れ知恵だ。



「ちっ! それぐらいの知能はあるってことかよ。槍を持っている手をよく見て位置取れ!」



 白藤先輩の号令が飛ぶ。

 先輩が言いたいことはおそらく槍の可動範囲のことを示している。

 例えば体の左側で持っているなら、前方や右側は槍で突くことができるが、左側となると胴体が邪魔をして攻撃できる範囲がやや狭くなる。

 鞍やあぶみがあって安定している場上でならまだしも、強引に背に乗っているゴブリンにそれを補正できるほどの腕前はおそらくない。

 そういうことを言いたいのだろう。


 ただ二体共同時に突っ込んでくるからあんまり役に立ってない。

 すぐにゴブリンライダーたちはその穂先が当たる位置まで近付いてきた。

 


「うわぁぁ!」


 

 全員で通路の壁に当たるぐらいギリギリで左側に避ける。


 思ったよりも騎乗している敵というのは怖くて厄介だった。

 単なる槍持ちのゴブリンなら間合いを取りつつ穂先さえ気を付ければ何とでもなったが、そこに止まらない足が加わると打つ手が少ない。

 なにせ槍をどうにかしても狼のタックルや牙を食らいかねないし、走るスピードが早くタイミングも取りづらい。

 戦いにおいて最も困るのは相手の行動が読めずコントロールできないことだった。



『ギギギィ!』



 ゴブリンライダーたちはニヤニヤと笑いながら槍を振り回し、通路をUターンして戻ってくる。

 さっきは運良く躱せたが今度も上手くいく保証はない。



「うわぁ!」



 こっちは総崩れだ。

 バラバラであれば何の問題も無いのに、騎乗されただけでこうもやりにくくなるとは。

 白藤先輩だって反撃の糸口を掴めずにいた。



「新堂君、危ない!」



 避ける方向を考え過ぎて足が動かなくなっていた。

 そこに熊井君が俺の肩を持って動かしてくれる。

 だが、



「ぐぅっ!」



 俺の代わりに穂先が熊井君の背中に当たってしまい苦痛をもらす。



「熊井君!」


「だ、大丈夫。痛いけど動けなくなるほどじゃない」



 防御力のおかげかダメージは軽減されているらしい。

 それでも尖ったもので引っかかれた痛みで彼の頬は強張っている。


 何か打開策は無いのか?

 現状の手持ちを羅列していく。


 って、また忘れてた。



「雨宮さん、魔法!」


「あ、その手がありました。『ブラホ目隠し』『ブラホ目隠し』」



 雨宮さんの魔法により狼たちの目に暗闇が巻き付いた。

 しばらくスケルトンやらコウモリやらで使わない機会が多かったから、こっちの切り札の存在が頭から抜けていた。



『ギギィ!? ギギ!』



 視界を急に奪われた狼にゴブリンたちが声を張り上げるも、バランスを崩し二体とも転倒を余儀なくされる。

 頭から地面に激突しかなり痛そうな不時着だ。

 


「今だ! 行くぞ熊井!」


「は、はい!」



 白藤先輩たちが放り出されたゴブリンに向かって駆け出していく。

 先輩はまずは槍を蹴り上げて使われないようにしてから起き上がろうとしていたゴブリンを踏んづけて消滅させた。

 熊井君はそのまま棍棒で一発。

 さらに目が見えない狼たちに向かってボコボコにして倒しきった。


 そこに木の宝箱が生まれる。



「開けます!」



 もう雨宮さんは自分から率先して宝箱開ける係りになっていた。

 


「中身は……ショートソード、ですかねぇ?」



 箱に入っていたのは飾り付けの無い剣だ。

 これも初期装備コーナーにあったのに見覚えがある。

 


「売ってもいいけど、一応熊井君が装備できるやつだし、保留しとこうか。要らないと判断したら売るってことで」


「うん、分かったよ。あ、レベル上がってる」



 ボードに剣を納める熊井君がレベルが上っていることに気付いた。



「うーん、雨宮さん以外はポイントは貯める方向かな。雨宮さんはできれば闇魔法を上げて欲しいけどどう?」



 強敵と思われたゴブリンライダーたちは雨宮さんの魔法で拍子抜けするほど楽な相手へとなってしまった。

 要は戦いようなんだなぁと思い知らされたので、ここでさらに幅が広がる魔法を強化するのが妥当だと思う。 


 ただ毎回MPを使わないといけないとなると、この先がやや不安でもあった。

 それはつまりMPが切れた時に対処ができなくなるということに繋がるからだ。

 まぁずっと通常攻撃だけでいけると考える方が甘い考えなのかもしれないが。



「私は構いません。短剣術や盗みを上げてもたぶんゴブリンライダーには太刀打ちできそうにないですし」


「それじゃお願い」


「了解です……『影縛りシャドウバインド』と『精神喰いスピリットイーター』が使えるようになったみたいです」


「ん、動きを止める系と、もう一つは何だろ」


「分かりません。影縛りはたぶんそうですね。ブラホ目隠しとちょっと似通ってて残念な感じがあります。もう一個は精神異常させる系ですかねぇ?」


「うーん。まぁ明日試してみよう」


「はい」



 色々と課題を残しつつその日は四層に到達し、帰ることになった。



・新堂直安

職業:召喚師(サモナー)

レベル:4

HP:51(54)

MP:14(31)

装備:木の杖(MAG+3)唐草の腕輪(AGI+2 DEF+2)

スキル:地属性召喚Lv2(コボルト、マッドドール) アブソーブ

(残りポイント1)


・熊井健太郎

職業:守護騎士(ガーディアン)

レベル:4

HP:71(104)

MP:10(13)

装備:棍棒(ATK5)

   革鎧(DEF6)

スキル:苦痛耐性Lv1 鈍器術Lv2(スマッシュ、スタン値増加)

(残りポイント1)


・雨宮雫

職業:盗賊(シーフ)

レベル:4

HP:67(73)

MP:15(25)

装備:良質なナイフ(ATKK3 MP+5)

スキル:闇魔法Lv2(目隠し、影縛り、精神喰い) 短剣術Lv1(毒斬り)

(残りポイント0)


・白藤琥珀

職業:僧侶(クレリック)

レベル:4

HP:63(67)

MP:23(29)

スキル:光魔法Lv2(回復、毒回復、光の盾)

装備:革のグローブ(ATK3)

(残りポイント1)

 

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