第20話
「あなたが女官長ね。初めまして」
「初めまして、王妃殿下。グロリア・マックバーニーと申します」
茶金の髪を綺麗に結い上げた紫色の瞳をした五〇代の女性。
年齢を感じさせない美しい姿勢で立ち、どんな美容液を使っているのか根掘り葉掘り聞き出したいほどの艶やかな肌をした女性だった。
「先代王妃様とは親しくさせていただき、現王陛下の乳母を務めさせていただたこともあります」
成程ね。それが彼女の誇りか。くだらに。
グロリア・マックバーニー侯爵夫人。現在は陛下の頼みでユミルの世話係兼教育係をしている。
教育係の方はあまり上手くいっていないようだ。ユミルが嫌がればすぐに甘やかす。飴を与えるばかりで何が教育係か。
「だから何?あなたの経歴なんてどうでもいいわ。現在の王妃は私。本来ならすぐに私の元へ挨拶に来るべきではないの?今が『初めまして』ってどういうことなのかしら」
私はこてりと首を横に傾けて問うとグロリアは眉間に皴を寄せた。その態度にノルンから冷気が漂う。顔は無表情だが、魔族である彼女が持っている魔力が冷気となって床を這いだした。それはほんの少しなので気を付けないかぎり気づかないものだ。
「私は現在、番様のお世話を陛下より仰せつかっております」
「だから?」
「は?」
本当に分からないのか。こんな連中ばかりでよくこの国あ成り立っているな。良識的な連中がそれだけ有能ということか。そこら辺はしっかりとすみ分けして、残しておこう。
「この国で最高権力を持っている女は私よ。後宮の人事は王妃である私の役目」
そこで初めてグロリアは顔を青ざめさせた。
「お分かりいただけたかしら?あなたがこのまま女官長を続けられるかどうかは私の気分一つで決められるのよ。つまり、あなたが媚を売らないといけない相手は元平民のユミルではなく、テレイシア王国の後ろ盾があり、現王妃である私よ」
グロリアは悔しそうに顔を歪め、下に降ろした拳は強く握りすぎているせいか真っ赤を通り越して真っ青になっている。手の中に集まっている血が全て止まっているのではないかと疑ってしまう。
「そ、そんなこと、陛下がお許しになりませんわ。番様だって、私がいなくなったら寂しがります」
私はグロリアの言葉を鼻で笑った。
お茶会やここへ突撃してきた時のユミルの姿を思い浮かべて、あの女はそんな可愛らしい性格はしていないと心の中で断言する。
「言ったはずよ。後宮の人事は王妃の務めよ。元平民にあなたを守るだけの力があるのかしら?」
守ることすらしないでしょうけど。
「マックバーニー侯爵を敵に回す気ですか?」
「あなたって哀れね。実力が伴っていないから権力に縋ることしかできない。でも、侯爵は私を敵に回してまであなたを守ってくれるかしら」
「後宮にも入れないくせに」
「それでも私が王妃よ。そして後宮の人事は王妃である私の采配で決まる」
「私はマックバーニー侯爵夫人で、私は前王妃と親しくて、私は現王陛下の元乳母で、私は番様の世話係で、教育係を陛下から仰せつかって」
それしか持っていない愚かな女官長に私は言う。
「だから何?」
「っ」
グロリアの唇から血が流れる。怒りのあまり唇を噛み切ったのだろう。彼女は顔を真っ赤にして部屋から出て行った。
これは本格的に女官長の入れ替えをした方が良いかもしれない。
「どうぞ」
「あら、ありがとう。気が利くのね」
私はカルラが淹れてくれたお茶を飲む。喉が潤ったおかげで少しだけ気分が落ち着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます