第2章 運命の赤い糸は切るためにあります

その夜、フォンティーヌは約束通り護衛を一人連れて来た。

青いメッシュの入った長くて赤い髪を上で結い上げ、片目の隠れた青年だった。

この国にいる騎士の素性を下っ端から全員、ハクに調べさせ上げて私が目をつけた一人でもある。

これは偶然か、フォンティーヌに企みが合ってのことなのか。

「シュヴァリエと申します」

赤髪の青年はフォンティーヌが私に紹介をすると同時に優雅に頭を下げた。

「まだ若いですけど、なかなか腕が立ちます。職務にも真面目に取り組んでおり、信頼の高い騎士です」

「そう。シュヴァリエ、私はエレミヤ。これからよろしく頼むわね」

「はい」

フォンティーヌは私の部屋に長居をするわけにはいかないのでシュヴァリエを紹介したらすぐに出て行ってしまった。シュヴァリエも出て行こうとしたけど、私が引き留めた。

「あなた、妹さんがいるわよね」

私の言葉に彼の警戒心が強まり、無機質と思われていた目に力が籠った。これは発言を一歩間違えれば死ぬかもしれないわね。と、思わせるぐらいには緊迫した空気が漂う。

私は敢えて彼に微笑みかけた。

この空気に呑まれたはダメだ。

「話があるの、座って」

私がソファーを示すと彼は躊躇った。ただの護衛が王妃の前で腰を下ろすなど常識的にあり得ないことだからだ。すぐに指示に従わないのは好感が持てるわね。

言われたことしかできない役立たずはいらないもの。

「座りなさい」

再度私が命じると彼は躊躇いながらも私の前にあるソファーに腰を下ろした。

「この国は面白いわね、シュヴァリエ。番というだけで何をしても許される。公爵の庇護にあるだけで違法が合法となるなんて私の国では考えられないわ」

「・・・・・」

無言で私を見つめる彼に私はホワイエルディ伯爵の資料を見せた。資料を読み進めていくうちに彼の顔色が変わる。

「・・・・ノルン」

彼の目は紫暗色の少女のところで止まっている。伯爵が所有する奴隷の一人だ。

「義妹だそうね」

「はい。母が山で捨てられていたノルンを見つけて保護しました」

「母君はとある貴族の暴行にあって亡くなられた。それに怒ったあなたの父君がその貴族を殺し、犯罪者として処刑された。あなた方一家には貴族を殺したことで賠償金が発生した。そしてそれを肩代わりしたのはホワイエルディ伯爵。代わりにノルンは奴隷として彼に買われることになった」

私の言葉にシュヴァリエは苦笑する。

「随分、詳しいのですね」

「見ての通り、陛下の番ではない私は自分の護衛を確保することすら苦労するのよね。だからこの城の人間は徹底的に調べることにしたの。もちろん、全員を調べ終わるにはまだ先の話ですけどね。ホワイエルディ伯爵のご令嬢はユミルの取り巻きの一人よね。先日、ユミルとちょっとした諍いが合ったの。だからその序に調べることになって偶然見つけたのよ」

私は紅茶を飲んでいったん、口の中を潤わす。

「ノルンは可愛らしい容姿をしているわね」

「ええ」

「おまけに魔族」

「っ」

どのような魔法が使えるのかは知らないけど、魔法の仕えない竜人が魔族に興味を持つ。自分のステータス向上の為に魔族を奴隷として買うことは胸糞悪いけど、よくある話。

「奴隷を所有しているという証拠もあるわ」

「どうせ直ぐに握りつぶされる」

「そうね。だって後ろにいるのは公爵ですもの。この国の摂政。だから作るのよ。公爵ですら庇えない状況を」

にやりと笑う私に、けれどシュヴァリエはすぐに食いついては来なかった。

「あなたの狙いはなんですか?無償で助けて下さるわけではないですよね」

「もちろん」

好きよ。あなたみたいに無償の善意だと簡単に差し伸べられた手を取らない子は。まさに理想の臣下ね。

「フォンティーヌがあなたに命じたことと同じよ。私の護衛をすること。私をちゃんと守ってね。裏切りことは許さないわ」

「あなたは、なんて人だ」

苦笑いしながらシュヴァリエはまるで困った子供を見るような目で私を見る。

「見た目とギャップがありすぎると言われませんか?」

透明に近い銀色の髪に白磁のような肌。見た目だけなら深窓の令嬢だ。まさか、こんな腹黒い女性だとは誰も思わないだろう。

「故郷でよく言われたわ。お前は黙っていればいいのにって。でも、この見た目ってかなり使えるのよね」

「強かな方だ」

そう言いながらシュヴァリエは私の元に近づき、跪いた。

「我が剣はあなた様の敵を全て排除し、我が身はあなた様を全ての敵から守る盾となりましょう。この命、この身は全てエレミヤ王妃殿下に。ここに騎士としての忠誠を」

そう言ってシュヴァリエは私の手を恭しく取り、キスをする。

「改めて、よろしくね。シュヴァリエ」

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