第12話

「公爵にお会いしたそうですね」

昼下がり、ブラッドリーに会った不快な気分を払拭させるために私は庭を散歩していた。そこへフォンティーヌが来た。私を心配して来てくれたようだ。

「ええ。なかなか退屈な時間だったわ。それよりもこの時間はまだ執務のはずでは?」

「普通ならそうですね。ですが、執務室に番様が来られたので急遽、休憩時間となりました。偶然、執務室からこちらへ向かうあなたが見えたので私はこちらに来ました。公爵の件は伺っていたので」

「私の侍女から?」

「っ」

申し訳なさそうな顔をするフォンティーヌに私は苦笑する。

「知っていたわよ。陛下がつけた、いいえ。ユミルだったわね。私に侍女をつけるよう進言したのわ」

くすくすと私は笑う。

「あの子、本当に何様なのかしらね。私に侍女をつけたのはノブレスオブリージュだと言ったのよ」

私の言葉にフォンティーヌは目を見開き、絶句してしまった。

私に言ったのだ。不敬罪で殺されてもおかしくはなかった。まぁ、陛下が止めるから無理でしょうけど。

「私の行動は全て侍女によって報告させているのでしょう。報告させてどうするのかしら?」

庭に咲き誇る薔薇に触れる。ちくりと指に痛みがある。薔薇についた棘で刺してしまったようだ。

まるでルビーの玉のような美しい赤が私の指に現れる。

「難癖付けて投獄する?それとも、手っ取り早く処刑してしまう?あの陛下ならしてしまいそうね。私との婚姻の意味を理解しているとは思えないもの」

「否定できないのが臣下として辛いですね。しかし」

フォンティーヌはハンカチを取り出し、私の指に巻く。そして大切なものを閉じ込めるように両手で私の手を包み込む。

「そんなことは決してさせません。もしもの時は私がどのような手段を用いてもあなたをここから逃がします。あなたは現在は王妃ですが元はテレイシアの王女。この国と心中する必要はありません」

「あなたは心中する気なの?」

「私はこの国の宰相ですから」

運命とはなんと残酷なのだろうか。生まれた国が違えば、仕える主が違えば、彼も自分の立場や仕事に誇りが持てていただろう。今のように好き勝手する貴族を止められない無力さを感じることもなかっただろうに。

「そう。ご愁傷様」

彼をテレイシアに誘うことはできる。でも、今の彼ではダメだ。陛下に呆れながらも陛下を見捨てられないでいるフォンティーヌを誘ったところでフラれてしまうだろう。

「殿下、公爵があなたに何かしなという保証はありません」

「そうね」

むしろ積極的に何かしてくるでしょうね。私の存在は彼にとっては邪魔でしょうし。近いうちに暗殺者でも送ってくるのかしら。若しくは侍女の誰かを使って毒を盛る。

可能性が高いとしたらブラッドリーの妻であるエウロカね。

「殿下、私を信じてくれませんか?私の選んだ者を殿下の護衛につけさせてください」

本当に私を心配していることが彼から伝わって来る。

この国に来てから彼が一番まともで私に対して真摯であったことは私が一番よく分かっている。ここで意地を張っても仕方がないことも。

「分かったわ。その代わり、私が任命したことにして」

「それは」

「あなたでは陛下に角が立つし、それに陛下から任命権を貰っているわ。それを使わずにあなたに任命させてしまったら前例を作ってしまう」

「成程。公爵がならば自分が選ぶと言いかねませんね。分かりました」

すぐに理解してくれる人と話すのは楽だ。とんとんと話が進んでいくから。

「今日の夕食後に連れてきます」

「ええ。お願いね。待っているわ」

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