第7話
公爵や王の息のかかった者に護衛につかされれば守られるどころか命を狙われかねない。だから、自分で護衛を選べるのならその危険は少なくなる。
私は手にある護衛を自分で命じられる許可証を握り締めた。
これは私の命の手綱の一つ。
誰にも見つからない場所に隠しておきましょう。
『命の危険は多いが、そなたなら大丈夫だろう。わが国の為に行きなさい。余の可愛い妹よ』
『もし、失敗したら?』
『死ぬだろうね。死にたくないのなら足掻いて見せなさい。頭をフルに使って生き延びてごらんなさい』
大丈夫よ、お姉様。
私はやれる。お姉様の望みを叶えて、必ずテレイシアに帰る。
大丈夫。私はやれる。
コンコン
「殿下、エウロカエルです」
「入りなさい」
「失礼します」
ピンと天井から吊るされたような美しい姿勢でエウロカが入って来た。
「番様が殿下をお茶会に招待したいと」
いい度胸しているわね。まさか、自分から来るなんて。
「下の者が私を呼びつけていると捉えていいのね、それは?」
「っ」
私が彼女をお茶会に招待するのは問題ない。同じ王宮内に居て、愛人が王妃をお茶会に招待するのはつまり自分の方が身分が上だと主張しているようなもの。
公爵夫人である彼女は当然それに気づいている。
だから気まずそうに私から視線を逸らした。
「いいわ。それで、お茶会はいつかしら?」
「ただいまからです」
「は?」
「今、すでに後宮の庭を使って行われています」
「あは、あははははははは」
思わず大笑いしてしまった私をエウロカは一度も見ようとはしなかった。
この場面だけ見れば私が心を病んだように見えるだろう。
私も大声を上げて笑うなんてはしたない行為を生まれて初めてやった。
それぐらい、この状況がおかしかったのだ。
「本当に、良い度胸をしている」
びくりと低く唸るような私の声にエウロカが怯えているのが視界の端に映った。
「エウロカ」
「は、はい」
喰われる寸前の子ウサギのように怯えるエウロカに私は殊更、優しく声をかけた。それが逆に不気味さを増して彼女の恐怖心を煽ると知って。
それでも、ねぇ、エウロカ。公爵夫人であるあなたは私の侍女を辞められないでしょう。公爵がそんなことを許しはしない。
私が飲むお茶に毒を入れらる侍女の立場を、夜間に不審者を手引きできる侍女の立場を狡猾な公爵が使わないはずないもの。
たとえ今はスパイでなくとも、いつかはスパイになれる。あなたは可哀そうなスケープゴート。
そんなあたなを私はどうしようかしら。今後の彼女の出方次第ね。それよりもまずは。
「とびきりのドレスと装飾品の準備を。あなたのセンスに任せるわ。すぐに支度してちょうだい」
「か、かしこまりました」
売られた喧嘩は買うのが宮中の流儀。
ユミル。あなたに後宮での戦い方を教えて差し上げる。
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