運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう

音無砂月

第1章 夫には既に運命の赤い糸で結ばれた相手がいました

私の名前はエレミヤ・クルスナー。

テレイシア王国第三王女。銀色の髪と瞳を持ち、テレイシア王国の宝玉とまで言われている。

そんな私は今日、カルディアス王国に嫁ぐことになった。

カルディアス王国は獣人族の中で最強と言われている竜族が治める国だ。

私たちが住んでいるこの世界には大きく分けて4つの種族が存在する。

人族、獣人族、天族、魔族。

私たち人間は4つの種族の中でも一番ぜい弱だが、一番頭が良いと言われている。

獣人族は誰よりも強い腕力や脚力を持つ。本当かどうかは知らないけど、拳で地面を割ることもできるとか。

天族は白い翼をもち、癒しの力で怪我や病気を治す。

医術者にはこの天族が多い。ただし、全ての怪我や病気を治せるわけではない。治せるかどうかは相手の体力と天族の力量次第。

癒しの力で回復力を無理やり上げるので相手の体力がその途中で力尽きたら助からない。諸刃の剣のような力だ。

最後に魔族。魔族は魔力というものを持って、魔法が使える人族のことを言う。

因みに私は人族だ。

私は三か月かけてガルディアス王国へ来た。

今まで私のお世話をしてくれた使用人や護衛は私をガルディアスへ送り届けたらお別れだ。

嫁いだらその国の人間になりますという意味も含めて使用人は一人も連れてこないのが常識なのだ。

ガルディアスに着いた私を出迎えてくれたのは黒い髪を後ろに撫でつけ、眉間にしわを寄せている不機嫌そうな顔がデフォルトの男だ。

黒い服に腰に剣を下げていることから騎士だろう。後ろにも数名、同じような恰好をしている人がいる。

正妃として嫁いできた私を迎える人間がこの程度?と疑問を持たないわけでもないけど、それがこの国のしきたりなのかもしれないし、何か事情があるのかもしれない。

私を送り届けてくれた使用人や護衛の人も少し不安げな顔をしていたので私は彼らを安心させるように微笑む。

「ここでお別れですね。長い間、お世話になりました」

「姫様」

涙ぐむ侍女を私は優しく抱きしめる。

「今までありがとう」

「どうか、お幸せに」

「姫様、あなた様に仕えれて光栄でした。どうか健やかに」

護衛が目を潤ませながら言ってくれた。

「申し訳ありませんが、お時間が押しているので」

私を迎えに来た黒髪が私と使用人たちの別れを惜しむ時間に水を差す。ゆっくりとお別れもさせてくれないなんてと少し不満に思うが、向こうにも事情があるのかもしれないし、仕方がない。

「みんな、元気でね」という言葉を最後に私は彼らと分かれた。

「近衛の騎士団長を務めさせて頂いています、クルト・ワイル・クリーンバーグです」

みんなと分かれた後、黒髪が自己紹介をしてくれた。

「近衛騎士団長?その若さで?」

近衛は王族の護衛を務める騎士の総称。エリート様だ。その団長ともなれば経験豊富な年配の者が務めるのが普通。しかし、目の前の男はどう見ても30歳代だ。

「誠に光栄ながら、陛下より賜っております」

本当に光栄と思っているのか怪しいぐらい不機嫌な顔で言われてしまった。

「エレミヤ・クルスナーです。これからよろしくね」

「どうぞ、馬車へ」

貴族階級の男として女性のエスコートには慣れているようですんなりと手を貸してくれたので私は彼の手を取って馬車に乗り込む。

「ところで、クルト。聞きたいことがあるのだけど」

馬車は動き出して少ししてから私は馬で馬車と並走する彼に声をかける。

「何でしょうか?」

「正妃となる私の出迎えにしては随分と少人数に思えるのよね。何か理由でもあるのかしら?」

私の言葉にクルトは初めて表情を動かした。どうやら彼の表情筋は死んではいなかったようだ。

「あなたは確かに我が国の正妃です。ですが、番でもないあなたを大勢で歓迎する必要はありません」

「・・・・・」

嘲り交じりにクルトが吐いた言葉に私は一瞬何を言われたか分からなかった。

「番」とは獣人族だけが持つ特別な風習だ。

獣人族は番と呼ばれる、人族の言葉で言うのなら運命の赤い糸で結ばれた相手がいる。彼らは物心つく頃からその相手を本能が渇望する。見つけたのならどこまでも大切にするとか。

ただ、何十億人もいるこの世界で一人の番を見つけることは難しく、殆どの獣人族が番に会えずに一生を送るそうだ。

王侯貴族の場合は特に家や国の為の婚姻をしなければいけないので仮に番を見つけても相手の身分によっては婚姻できないらしい。

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